[PR]

(18日、高校野球鹿児島大会 鹿児島6―1鹿屋)

 もう「鴨池の魔物」に、のみ込まれることはなかった。

 2点を追う四回2死、鹿屋の坂口壱休(いっきゅう)主将(3年)は狙い球のストレートを振り抜き、打球は右翼手と二塁手の間にぽとんと落ちた。「二塁に進まないとチャンスはない」。身長182センチ、体重94キロの体で全力疾走。たどり着いた二塁上で、拳を高く突き上げた。

 夏の鴨池は、小学生のときに父が何度も連れてきてくれた場所。憧れの舞台に立ちたくて、中学から野球を始めた。

 そして初めて球児として立った昨夏。無死一、二塁の場面での打席で出た犠打のサインに「頭が真っ白になった」。体が動かず、走者は刺された。監督からは「お前には野球はできん」とまで言われた。普段ならできるプレーをさせない「魔物」が、鴨池にいた。

 先輩が引退して主将になったが重圧に負け、昨年8月にあった練習試合を休んだ。ユニホームを着ることすら嫌になり、野球を辞める覚悟だった。

 しかし、その日のうちに仲間が家に来て、「お前がいないとチームが成り立たない」。翌日に監督ともじっくり話し込み、野球への気持ちを取り戻した。秋の県大会では結果を残せなかったが、冬に鍛え抜き、春には8強まで勝ち進んだ。

 リードを4点に広げられた八回の打席。打球は遊撃手の前に転がり、間に合わないとわかっていたが頭から飛び込んだ。

 一度は拒絶したユニホーム。必死のプレーで泥にまみれ、右胸は大きく破れた。これも、憧れの鴨池を駆け回った勲章だ。(野崎智也)