山内深紗子
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実家の居間でくつろぐ久保田優里さん(右)と兄の植松暖人さん(中央)、弟の洸志さん=大津市
重い障害のある入所者19人の命が奪われた「やまゆり園事件」から間もなく2年。「障害者は不幸を作ることしかできない」。命を選別する植松聖(さとし)被告の言葉は、社会に暗い衝撃を与えた。命の価値とはなにか。障害者の「きょうだい」として生きる人の目を通して考えてみたい。
あの事件の後、警察は被害者を匿名で発表した。遺族の強い希望という理由だった。
滋賀県の養護学校教諭、久保田優里(ゆり)さん(28)は匿名公表に胸が苦しくなった。兄の植松暖人(あつひと)さん(30)は脳性まひで重い知的・身体障害がある。偶然、旧姓が被告と同じだったことも嫌だった。
「障害のある人の死を数でしか語れない社会への違和感。一方で、家族が名を明かせない気持ちもわかるから、しんどかった」
兄を特別視せず隠すこともなかった両親のもとで育ち、幼い頃は兄の「障害」を意識したことがなかった。強く認識したのは9歳の時だ。
休日の午後、兄と留守番をした。「ほんまは話せるけど、実は隠してるだけなんやろ?」。兄にそう耳打ちし、部屋を出て様子をうかがった。「うーっ」。30分間。待っても兄は話さなかった。よだれが兄の首をつたった。
学校で同級生が不器用な友人を「お前、障害児か。何にもできん」とからかっていたことが頭に浮かんだ。胸をつかれた。
中学生になると、友人に兄の存在を隠すようになった。好きになった人にも言えなかった。
なぜ、言えないのか。何度か障…
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朝日新聞社会部