真備の横溝正史疎開宅、水害免れ開館中 「日常を守る」
小沢邦男
ミステリー小説の巨匠・横溝正史(1902~81)が戦中戦後に身を寄せた岡山県倉敷市真備(まび)町の疎開宅が、西日本豪雨の被害を免れて開館を続けている。わずか約20メートル手前まで水が迫り、近くには浸水して片付けに追われる家もある。それでも「こういう時こそ、真備の日常の姿を守ろう」と静かに来館者を待つ。
横溝は父が旧船穂町(現・倉敷市船穂町)出身だったことが縁で45年4月から3年余り、旧岡田村(現・同市真備町岡田)に疎開。慣れない農作業で地元の人たちと交流を重ねるかたわら、ひっそりと執筆を続けた。ここでの生活で、名探偵金田一耕助が登場する「本陣殺人事件」「獄門島」「八つ墓村」などの代表作が誕生している。建物内は当時の面影を残し、特に庭のたたずまいは当時のままだ。
現在避難所となっている市立岡田小学校の少し北の高台にある木造2階建て。7日朝、地元の人たちでつくる疎開宅管理組合の浅野昭江(てるえ)さん(74)はいつも通り、自宅から車で疎開宅に向かった。前夜からの豪雨で自宅は停電となり、テレビも電話も使えない状況。わが町の浸水被害をまだ知らなかった。
駆けつけると、消防隊員が疎開宅の駐車場に次々と車を誘導していた。近くの住民らが避難のために身を寄せていたので、あわてて玄関の鍵を開けた。20メートルほど手前まで浸水していることを初めて知った。住民有志によるゴムボートでの救出活動を見守った。
疎開宅は市からの委託で組合…