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 パチンコに競馬、競輪、競艇……。日本はすでにギャンブル大国ですが、新たな賭け事としてカジノの登場が目の前に迫っています。他の先進国に比べ、ギャンブル依存症が疑われる人の割合が高いなか、依存症対策は十分なのでしょうか。

《なぜ》一発逆転の夢を見るから 玄秀盛さん(公益社団法人日本駆け込み寺代表)

 日本はギャンブル大国や。パチンコだけで約22兆円、競馬や競艇、競輪なんかも合わせたら30兆円産業になる。テレビCMや新聞広告で俳優や有名人を使い、すごくいいイメージにして勧誘するわけや。パチンコや競馬などを「レジャー」というが、やっていることは賭け事。「ばくち」やねん。

 日本駆け込み寺には、家族や同居人がギャンブルにはまりトラブルを起こしたという相談がよく来る。人数も増えているなぁ。

 ギャンブル依存症の入り口はパチンコが多い。店の数は10年前に比べ2割減ったけど、まだ1万店もある。どの店も表通りにあるからふらっと入れる。勝ったらアドレナリンが湧く。そのときの爆発は普段味わえへんような興奮や。おれも昔、パチスロにはまったことがあったけど、これはやってみんと分かれへんものやね。

 玉が出ないときは、「もうちょっと続ければ勝てる」と、台の横にある機械に千円札をひゅうっと入れて玉を買う。5千円、1万円とカネをつぎ込んでも出なかったら、「元を取らなあかん」と、千円札を突っ込み続けるわけや。ギャンブルってやめどきが分かれへん。大王製紙の会長だった井川意高さんだって元を取ろうとして100億円以上使ってしもた。感覚がずれてくるんやね。

 カネがなけりゃ、せえへんやろって言うけど、なくてもするねん。消費者金融でも親でもヤミ金でも、どこからでも借りてくる。最悪、盗んででもやる。離婚や一家離散、破産、犯罪と周りを巻き込んでいくのがギャンブル依存症の怖さで、破綻(はたん)が待っている。

 パチンコにはまった息子が借金した300万円を、親が肩代わりしたケースがあった。息子は「ちゃんと働けよ」と言われて会社に行ったけど、人間関係や仕事がうまくいかず職場になじめない。そのうっぷん晴らしでついパチンコをやってしまってなぁ。興奮してすかっとしたものの、また元通りや。世の中に絶望だらけの人間が、「勝つ」といういちるの望みにかけるから依存症になるねん。

 見ていて思うのは、依存しやすい人には趣味がない、友人が少ない、仕事がうまくいかない人が多い。だけど、そんな人はざらにいる。たまたま大当たりするということだってある。それでもちゃんと働いている人なら、何時間も、週何回もやられへん。だから、どぼっとはまるのは、働いていない人が圧倒的に多いんや。

 カネがないのにやるのは、一発逆転で元を取ることを夢見るからやね。パチンコは今年2月から、勝ちにくいよう出玉の上限が引き下げられたけど、競馬や競艇などは公営ギャンブルなのに、高額配当が出る。これが「自分もひょっとしたら当たるかも」という射幸心をあおる。しかも、わざわざ開催場所に行かなくても、場外やインターネット、ノミ屋など、賭けられる手段が増えている。こういう公営ギャンブルこそ、マイナンバーで回数を制限するなどの規制をすべきや。

 ギャンブル依存症は、薬物やアルコールなどの依存症と同じ病気。覚醒剤や大麻などの薬物は法的に禁止されているから、やったら逮捕されるし、アルコール依存症なら治療を受けられる病院も多い。でも、ギャンブルはまだそこまでの対策をしてこなかった。

 みんな「勝てる」という希望を抱くからギャンブルにはまるけど、勝てるわけないんやから。ギャンブルで勝てるのは、10人いたら1人。2人がドローで、7人は負け。完璧にむしり取られるばかりなんや。それで30兆円というギャンブル産業が成り立っている。本当に依存症をなくすなら、小学生のときからこういう仕組みを教えなあかん。(聞き手・諏訪和仁)

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 1956年生まれ。90年に得度。2011年から東京・新宿で家庭内暴力、ストーカーなどの相談を受け付ける「日本駆け込み寺」を運営。

《解く》根本に人間関係と心の問題 三宅隆之さん(依存症回復支援団体「ワンネスグループ」共同代表)

 高校生の頃から酒を飲み、大学では、先輩に勧められたパチンコがやめられなくなりました。卒業後、ラジオ局に就職しディレクターになりましたが、パチンコ代欲しさに同僚の財布を盗み、クビになりました。刑事さんにたっぷり絞られて警察署を出ると、パチンコ店に自然と足が向き、「なんでオレはこうなっちゃったんだ」と思いながら、スロットマシンのレバーを何度も引いていました。

 少年期に親との関係で問題がありました。いい学校へ、という親の期待がものすごく強かった。「いい」高校に入ったのですが、やる気がおきず、成績はどんどん下がりました。酒を飲むと、成績のいい友人も、親も、自分と対等に見えて楽になりました。

 ギャンブル依存症は、世界保健機関(WHO)も精神疾患の一つと定めています。意志や根性の問題ではなく、病気と認識すべきです。依存症の人を抱える家族は、「育て方が悪かった」「恥ずかしい」と問題を外には出さず、自分たちで解決しようとして、こじらせることもよくあります。

 依存症から回復するには、医療機関での治療や自助グループ活動への参加、私たちのような民間施設への入所などの方法があります。病院での治療には公的医療保険が使えますが、ギャンブル依存症専門の医療機関は少ないです。

 自助グループでは互いの経験を学び、励まし合い、回復を目指します。私も数カ月間、毎晩のように活動に参加しました。しかし症状がひどかったこともあり、2006年に横浜の民間施設に1年3カ月ほど入所。以来、ギャンブルも酒も一切断っています。

 そうした経験を踏まえ、11年から奈良県の依存症回復施設の代表を務めています。職員の多くは、依存症の経験者です。現在、20人が入所し、1年半ほど生活して3段階のプログラムをこなします。

 多くの人は家族の意向で施設に来ます。まず、なぜ施設に入るのか、動機付けをはっきりさせます。毎朝7時に起き、三食とり、夜11時には寝るという規則正しい生活を取り戻します。1日千円ずつ渡し、必要なモノを買ってもらう。今までは財布に万札が何枚も入っていて感覚がまひしている人がほとんどです。千円の価値を知ることから始めます。

 第2段階では、依存症の根底にある心のゆがみを自らが理解します。罪悪感や恥と思うことを一つずつ書き出して向き合う。カネを盗んだ相手方に謝りに行き、返済を約束することも大事です。

 最後の段階では、スーパーなどでアルバイトをします。ギャンブルでなく、働いてカネを稼ぐ練習です。退所後の計画も立てます。

 こうしたプログラムを集中してこなすには通所では難しい。外に出ればギャンブルや酒の誘惑もある。集団生活が望ましいのです。私たちの施設では11年以降、約210人が暮らし、約7割の人が依存症からの脱却に成功しました。

 依存症の根本原因は、人間関係と心の問題だと考えます。カジノの入場回数を制限すれば、一定の人は排除されるでしょう。しかし心に問題を抱えている人は、パチンコや酒、薬物など、ほかのことに依存したり、自傷行為、最悪の場合は自殺をしたりします。

 私たちは今年2月、カジノなどの統合型リゾート(IR)の候補地とされている大阪湾の人工島、夢洲(ゆめしま)の近くに相談所を開きました。世間にはギャンブル依存症について「抜けられない」「何をしでかすか分からない」という誤解があります。今回、IR実施法案をめぐりカジノへの賛否の論議が高まりました。ギャンブル依存症について正しい理解が広がる、またとないチャンスだと考えています。(聞き手・桜井泉)

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 1974年生まれ。精神保健福祉士。国際組織IGCCBのギャンブル依存に関するカウンセラー資格も持つ。

 

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