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 第100回を迎えた今夏の全国高校野球選手権の地方大会には3920校、3781チームが参加している。この節目の大会で注目を集める選手がいる。強豪の大阪桐蔭で、「最強世代」とも呼ばれる現チームを支える3年の根尾昂(18)だ。

 今春の選抜大会決勝の4月4日。阪神甲子園球場から遠く離れた岐阜県飛驒市で、パブリックビューイングが開かれた。集まった約60人の視線の先にいたのは、地元出身の根尾。

 富山県境に近い山あいで、3人きょうだいの末っ子として育った。小学2年の時、3歳上の兄にならって野球を始めると、1年後にはソフトボール投げで50メートル超を記録し、6年生の記録をも超えた。「人気のない町で、遠投が好きでずっと投げていた記憶があります」と根尾。

 プロ野球の中日の試合をテレビで見て、選手が格好良く思えた。小学生の時、継投した試合で押し出し四球を出して敗れたことがあった。父の浩(52)は「試合後、チームメートから声をかけられ、仲間のいる野球がより好きになったのでは。それからは、ひたむきに練習するようになった」と言う。根尾は中学時代、スキーの全国大会で優勝するほどの実力があったが、野球の道を進んだ。

 トップレベルで野球をしたいと進学した大阪桐蔭は、春夏の甲子園に過去19回出場の強豪。根尾は投打の要を任され、今春の選抜決勝では背番号6をつけながら先発完投した。

 それでも根尾は「まだ地元の応援には応えられていない。夏の甲子園で優勝してこそだと思う」と語る。監督の西谷浩一(48)は「負けず嫌いで強い向上心がある。99点ではなく100点を目指すプレーをしてほしい」と期待する。

 根尾の最後の夏、第100回の北大阪大会が今月始まった。

 16日の初戦。四條畷を9―0の七回コールドで下した。

 根尾は5番、遊撃手として出場。相手エースが制球に苦しむ様子をベンチから見て、甘い球は初球から振ろうと決めていた。初球をたたいて3安打、2打点をあげた。根尾は試合後、「相手の隙につけ込む攻撃ができた。全員が笑って終われる夏にしたい」と語った。

 根尾の両親はともに市内の診療所の医師で、共働きの親にかわり、地域の住民が幼少期の根尾を預かった。母の実喜子(51)は「雪かきや子育てなど住民が助け合う町で、幼い頃から指図されることなく気長に育ててもらった。自分で考える習慣はそこで培われたのかなと思う」と振り返る。父の浩も「勉強も含めて昂に口出しすることはなかった。考える材料を与えて、見守るだけだった」と話す。根尾は、浩が撮影したビデオで自らのプレーを見直しては、フォームなどを改めた。

 中学では「温故知新」を掲げ、生徒会長を務めた。試合では攻守交代でベンチから走って守備につく際、毎回グラウンドに一礼する姿がある。「父からは『礼に始まり礼に終わる。勝つだけの選手でなく、人としてやるべきことをしなさい』と言われてました」

 大阪桐蔭監督の西谷は「ユニホームを脱いだ時に信頼される人やリーダーになれるよう、高校野球を通じて学んでほしい」と指導する。

 今月開幕した北大阪大会前、根尾は子どもたちへのメッセージをマスコミに求められ、こう語った。「野球を頑張るのも大事だけど、学校で学べることの方が多い。グラウンド外でも成長してほしい」

 その根尾らを近くで一目見ようと、大阪桐蔭の試合球場の外にはいつも、野球少年やファンが試合後、大勢待ち構えている。(五十嵐聖士郎)