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 広島大会第4日の20日、シード校の広(広島県呉市)がコールド発進した。背番号「10」の外野手、向田(むこうだ)智樹君(3年)はベンチでほっとした表情を浮かべた。

 西日本を中心に襲った豪雨で、自宅がある坂町では16人が犠牲となり、今なお1人が行方不明になっている。開幕予定日の前夜6日午後8時ごろに1人で小屋浦地区にある自宅にいた。たたきつけるような雨が続いていた。仕事に出ていた母から避難を促すLINEが届き、2階に上がった数秒後、そばの窓ガラスが砕け散った。土石流だった。

 そのまま2階に閉じ込められた。夜通し、両隣の家で同じように閉じ込められた人たちと「助けは来るよ」と声を出し、励まし合って耐えた。翌日昼、消防隊員に素足のまま救助された時には、命あることへの感謝しかなかった。「もう野球どころじゃない」

 数日後、家に片付けに戻った。1階は全て土砂にのみ込まれていた。ふと、泥の中に白いものがひっかかっているのが見えた。数週間前にもらった背番号「10」だった。「自分の夏は、まだ続いとるんか」

 春は「20」だった。平崎直樹監督(52)は「打力も向上したが、何より勝負強い。夏に成長するはずという『期待値』をこめた」と若い番号を託していた。

 背番号についた泥の跡はなかなか落ちなかったが、いとこのお姉さんが繰り返し洗ってくれた。みつからなかったスパイクやグラブはチームメートが貸してくれた。被災直後は親類宅に身を寄せ、今は高校にほど近い野球部員の家に下宿させてもらっている。

 初戦の20日、チームは一回から大きくリード。向田君はこの日は控えだったが、ベンチから声をあげた。「みんなで野球できるのが本当に楽しい。出る機会があれば、自分も絶対に打つ」。広は22日、次戦に臨む。(新谷千布美)