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 東京都内の公立中学校での授業をめぐって起きた議論をきっかけに、4、5月のフォーラム面で、どのような性教育が望ましいのか、みなさんと考えました。ただ、学校でできることには限りがあります。今回は、家庭で子どもに性の話をどう伝えればいいかを考えます。

一生懸命な姿勢が大事

 親でも先生でもない「ナナメの関係」の大人として、地域の子どもたちに性についての講座を開いている女性がいます。4、5月に掲載した記事「性教育、どこまで」を読み、「学校で教えるには限界がある。でも、各家庭で話すのが難しいのもわかります」とメールをくれました。

 小学6年の長女、4年の次女、2年の長男がいる東京都杉並区の篠澤希美子さん(44)。長女が5歳の時に「赤ちゃんはコウノトリが連れてくるんでしょ?」と聞いてきたことをきっかけに、子どもたちと性に関する絵本を一緒に読んだり、月経時の出血について「赤ちゃんのためのベッドなんだよ」などと話したりするようになったといいます。

 その頃から年に数回、助産師らを招き、命の誕生や体のしくみなどについての講座を開いてきました。ただ、子どもからは「一番聞きたかったことが分からなかった」、保護者からは「家庭で性交のことまで伝えるのは難しい」といった感想も聞かれ、昨年からは篠澤さん自身が地域の子に話すようになったそうです。

 まずは、小学5年生以上の女の子とお母さん十数組に、生理や体の変化、その意味について話しました。受精のしくみを解説する絵本や映像も用いながら、交尾をする他の動物と同じように人間も命をつないできたこと、ただ、性交はプライベートなことなので「両親に『いつ、どんなふうにしたの?』などと根掘り葉掘り聞くのは控えようね」ということも伝えたそうです。

 子どもたちからは「生まれてくる命はすごく大切で、とてもうれしいことなんだと分かった」「精子と卵子の出会いは学校では習えなかった。今ここで習えてよかった」といった感想が聞かれたといいます。

 「こういう話は男子にもきちんと知ってほしい」という女の子たちの声を受け、今年3月には、初めて男の子向けの講座を開催。講師役は篠澤さんの弟(41)が引き受けてくれたそうです。親のすすめで渋々来たという中学2年の男子は「性交は命をつなぐためのものだということが、とてもよくわかった」と感想を寄せました。お母さんたちからも「なかなか息子に伝えにくいことだったので、参加してよかった」と好評だったそうです。

 篠澤さんは「興味をもった時に正しい情報が入るとは限らない。『うちの子はまだ興味がないから』ではなく、大切なことだからこそ、家庭や地域で伝えていきたい」と話します。ただ、篠澤さん自身、さまざまな講演や本などに触れる中で、「子どもへの伝え方としては抵抗感がある表現もある」といいます。「この表現なら子どもに伝えられる、この言い方は私には無理、といったラインは人それぞれ。決して無理する必要はない。どんな表現で、どこまで伝えるにせよ、一生懸命に大事なことを伝えようとしている姿勢は、子どもに伝わると思います」(三島あずさ)

機会逃さず 肯定的に話を

 堺市で助産院を開業する助産師の木戸口光子さん(63)=神戸市=は、自身の3人の子育て経験をもとに、家庭でどう性について話すかを保護者たちに講演しています。

 性教育の必要性を感じたのは、病院に勤めていた20代の頃にさかのぼります。近親姦で妊娠させられた10代の少女と、閉経したと思っていて妊娠してしまった45歳の女性に出会いました。2人とも自分の体のことをよく知らずにいました。また、たとえ女性に知識があっても相手の男性次第で、女性が自分を守れない状況があることを痛感しました。

 今は、学校では医学・科学的な側面から、家庭では子どもが悩んだときに親を信頼して相談できるよう、性を肯定的に話す場にすることが大切だと考えています。子どもが「赤ちゃんはどうやって生まれるの?」といった素直な疑問を口にしたときに、逃げたり否定したりせずに、答えてほしいと伝えています。

 木戸口さんは、性について話すのは、子どもが幼いほど素直に聞いてくれ、スムーズに吸収されるとアドバイスします。実際、自身の長女の場合は2歳のころから、絵本「あかちゃんはこうしてできる」を読み聞かせていました。長男を妊娠中で、お姉ちゃんになることを分かりやすく伝えたいと思ったことがきっかけだったそうです。

 この絵本では性交を、大好きな人同士が赤ちゃんがほしいと思った時にする行為と紹介し、「すてきなこと」と書いています。この言葉に木戸口さんはハッとしたと振り返ります。「私の中に、性は恥ずかしいことと思っている部分がありました。でも、親が話すべきことではないと考えていると、子どもに伝わり、どんどん言えなくなっていきます。『ママも恥ずかしいけれど大切なことだから言うね』と、自分の知る限りで良いので答えて」と木戸口さん。「うそは必ずいつかばれる」とも言います。

 長男が小学生になったとき、ザリガニの飼育法を調べていて、「交尾」を知りました。そこから人間の妊娠・出産の話に。そのとき「僕も(セックスを)していいの?」と聞いてきたので、木戸口さんは「もし相手に赤ちゃんができたらどうする?」と答えました。長男はしばらく考え、「僕、まだ学校行かなあかんからやめとくわ」と答えました。このように、性について話す機会は様々にあるので、その機会を逃さずに「しっかり考えて行動すること」を伝えてほしいと話します。(山田佳奈)

自分と違う性の子どもには…

 異性の子どもには、どう性を伝えればいいのでしょうか。

 北九州市小倉北区の公務員男性(46)は、中学3年と小学6年の娘2人がいます。妻とは5年前に離婚。子どもは男性が引き取りました。

 離婚して間もなく直面した問題が、長女に初潮の手当てをどう伝えるか、です。「そう遠くない時期に初潮を迎える。父親の口から『生理』という言葉を聞くのは嫌がると思ったし、僕も気恥ずかしかった」

 とはいえ、伝えないわけにはいかない。頼ったのが、長女と同い年の女の子がいる、保育園時代からの「ママ友」でした。5年生になってすぐ、ママ友が自身の娘に月経について話す時に同席させ、薬局でナプキンを準備するのもお願いしました。男性は「自分がすべきかと悩んだこともあったが、頼れる同性の大人の知り合いが娘にできたことを含め、今は良かったと思っている」そうです。

 学校などで性教育の講演をしているNPO法人「ピルコン」(東京)の染矢明日香代表(32)は「異性の親を異性とみなして適切な距離を置くことは、子の健全な発達。それを親も尊重する必要がある」と言います。染矢さんは2015年、「マンガでわかる オトコの子の『性』」(合同出版)を出版。思春期を迎えた子どもに親がどうしたら性の正しい知識を伝えられるかと考え、子どもが手に取りやすい漫画本に思い至りました。「正しい性の知識を伝えなければ、特に男の子はネット上にあふれる不適切な情報を正しいと思い込んでしまう。こうした本をそっと本棚に置くのも一つの手です」と話します。(山下知子)

 学校や家庭で十分な性教育を受けた経験がなく、「子どもに性のことをどう伝えたらいいか」と悩む親も少なくありません。東京都国分寺市の「矢島助産院」に勤務する助産師の工藤有里さん(43)は、そんな親世代が性について考えるための全4回の講座を定期的に開催しています。参加者は小さな子どもがいる母親が大半です。

 講座では、まず自身のお産やパートナーや親との関係、これまで性について自分が感じてきたことを振り返ってもらいます。出産をめぐるトラウマや劣等感、自分が子どもの頃に性について両親に聞けずモヤモヤしたことなどが語られます。

 ある参加者は、自分の父親との関係が悪く、恐怖心から男性である息子の子育てに不安を抱いていました。しかし、会に参加して自らの子ども時代や夫と築いてきた信頼関係を振り返り、子どもへの愛情を再確認したそうです。「つらかった経験も改めて振り返ることで、肯定的に捉え直せたり、新たな発見ができたりする」と工藤さん。親自身が性に対してネガティブな思いがあったり、性教育について夫婦間で意識の差が大きかったりすると、子どもにうまく性のことを伝えられないと感じています。

 一通り語った後、性のことをどう子どもに伝えるか、具体的なアドバイスもしていきます。たとえば性器などプライベートゾーンについての考えを育むには、おむつを替える際に「汚いから」ではなく「大事なところだから、きれいにしよう」などと言うだけでも違うはず、と助言。また、子どもに性について聞かれてどう答えていいかわからないときは、うそをついたり怒ったりせず、「調べておくね」といったん保留にするか、絵本を使って説明することなどを紹介します。

 工藤さんは「ただ知識やノウハウを伝えるだけではなく、自分の人生を振り返ってもらう中で、自分なりの子育てや性教育を考えてもらいたい。親自身の性教育もとても大事」と話します。

<アピタル:オピニオン・メイン記事>

http://www.asahi.com/apital/forum/opinion/(塩入彩)