【動画】久多で伝統文化を学ぶ親子教室が開かれ、その映像記録に立命館大の学生たちが授業の一環で協力している=福野聡子撮影
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 京都市最北端にある久多(くた)。国の重要無形民俗文化財「久多の花笠踊(おどり)」などの伝統行事や昔ながらの暮らしの技が残る山里です。ただ、人口は今や約80人。学校もなくなって久しく、担い手の高齢化も進んでいます。受け継がれてきた生活文化をどう記録し、次の世代へどうつないでいくか。地域や行政が知恵を出し合って、伝統文化の学びの場「親子教室」を開き、大学生らが撮影で協力する取り組みが始まりました。

縄なう作業に子ども夢中

 「伝統文化親子教室」は文化庁の事業の一つで、まずは7月15日夜の「虫送り」から。松明(たいまつ)を手に稲の害虫を追い払う行事で、この日午後、集落のお寺の境内に4家族13人の親子連れが集まり、松明づくりを一から学びました。

 久多の虫送りは、川の流れに似ています。松明行列は、久多川の本・支流の上流(久多上の町・久多宮の町)をそれぞれ起点とし、田んぼや川のそばの道を練り歩きます。そして、川がつながる志古淵(しこぶち)神社前で「合流」し、さらに下流へと害虫を追っていきます。松明は自分の家で作って持ち寄るのが習慣だそうです。

 松明作りの指導にあたったのは、久多宮の町の駒池重尚さん(68)と常本治さん(63)。子どもの頃の虫送りは3日連続。夜に友だちと会え、最終日にお菓子がもらえる楽しい行事だったそうです。

 松明は割った竹を縄で束ねて作ります。常本さんによると、竹は行事のためにわざわざ伐採するのではなく、農作業の支柱などに使った古い竹を取り置いておくのが基本。「乾燥してよく燃える。ムダがなく、ごみにならないしね」。

 まずは「農作業の基本」、わら縄をなう作業から。一人ひとりに地元の「先生」が懇切丁寧に教えるとあって、スピード習得。ゲーム世代の子には難しいと思っていましたが、コツをつかむとおもしろいよう。他の作業が始まっても、縄ないを続ける子どもが続出しました。

 続いて、竹を割る作業です。コツがあり、節の部分を木の槌(つち)でたたくと、簡単にバラッと何本かに割れます。棒状になった割れ竹をまとめ、わら縄で、簡単にほどけない「とっくり結び」にして束ねると、松明のできあがりです。

 割り竹は長さ1・4メートルほど。小さな子が束ねるのは難しく、「先生」やお母さんが手を添えるなどしてサポートしました。最後に、虫送りの掛け声「泥虫出ていけ、刺し虫出ていけ」を鉦(かね)と太鼓の音にあわせて練習。さあ、あとは日が暮れるのを待つばかりです。

立命館大の学生が学びながら撮影

 「生き物がいっぱい!」「これは撮っておこうよ」。この日、集落のあちこちで足を止め、カメラをのぞき込む若い人たちの姿がありました。立命館大学映像学部の学生4人です。この夏、授業の一環で、久多の伝統行事や担い手たち、次世代が学ぶ「親子教室」の様子を撮影します。「継承」へのありがたい助っ人です。

 京都の大学に通う4人ですが、この授業で初めて久多の存在を知ったそうです。事前打ち合わせでは「虫が苦手」という人もいましたが、午前中に行われたルート確認のロケハンでは、ニシキゴイやオタマジャクシが泳ぐ田んぼを見つけ、歓声を上げて撮影。松明作りの親子教室でも、単に作業の様子を撮影するだけではなく、地元の人へのインタビューや、自ら縄をなう体験も。

 立命館大3年の越田祐貴さん(20)は久多に来て、故郷・石川県の地元を思いだしたと言います。「故郷でも担い手不足で続けられなくなった行事があります。自分たちが作る映像で久多の力になれたら」。ドキュメンタリー制作を学んでいるという樋口諒也さん(21)も「都会で暮らす人との意識のギャップを埋められる映像を作ってみたい」と話していました。

 虫送りは午後7時半ごろから。子どもたちは松明を一つずつ手にし、薄暮から暗闇に変わる道を「泥虫出て行け」と声を出して練り歩きました。

 学生たちは重い機材を抱えながらも、行列を前から撮影しようと、走りながらロケを敢行。久多上の町の虫送り行列の起点、辻光男さん(92)宅では、神さまに供えた灯明の火を松明に移す様子を撮影。辻さんの「昔は田んぼの泥虫(ドロオイムシ)に悩まされた」という思い出も取材していました。

人々の思いを可視化し「記憶」に

 親子教室の開催には、京都市や左京区の職員も協力。その一人、市文化財保護課の福持昌之さん(48)は、久多の花笠踊の研究や民具収集を通じ、文化の継承が難しくなっていることを肌で感じてきました。「お祭りでも息子さんだけが帰省し、その子どもたち(孫)は来ないことも多いと聞きます。親子教室が子どもたちの夏の思い出となり、久多に関心を持つきっかけにもなれば」と言います。

 久多の文化を映像で記録する取り組みは、立命館大学映像学部の鈴木岳海(たかみ)教授(45)=映像人類学=が、学生たちへの授業の一環で進めています。

 中山間地域の現状について、「暮らしはもちろん、歴史、生活、環境なども静かに忘れられようとしている」と指摘します。学生による撮影の授業については、「記録はもちろん、久多の人々の記憶を残すことであり、社会に合わせて生活文化をつなぎつつ(住まうだけではなく)久多を生きている人々の感情や感覚、意識を可視化することになるのでは。久多を知らない学生が関わることで、久多に生きてきた方がこれからの久多に思いをはせる機会としてほしい」と思いを寄せています。

 今後は、8月24日の「久多の花笠踊」まで続く夏の行事を撮影して編集し、完成した映像作品を地域の人たちに見てもらった上で、11月に地元での公開を計画しているそうです。

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 久多は今、薄紫色の「北山友禅菊」が咲いています。夜は家の門灯をつけているとクワガタムシやセミが飛んできます。この猛暑、昼間はさすがに暑いですが、早朝は(手元の温度計で)20度ほどに。京都の街なかから車でたった1時間なのに、環境の差には驚くばかりです。

 次の親子教室は、8月5日の「久多 夏の里山まつり2018」です。お年寄りによる俵編み体験や昔の民具の説明があり、撮影も予定されています。学生たちの感性でとらえた「久多の記憶」の完成を楽しみに、この取り組みを応援していきたいと思います。(福野聡子)