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 6月に世界文化遺産になった長崎・熊本の「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」。愛知県立芸術大学名誉教授で日本画家の小山硬(おやまかたし)さん(83)は長年、画題として故郷の潜伏キリシタンや教会を描いてきた。取材を続けてきた地元の人たちを思い、世界遺産になったことを喜んだ。

 小山さんは熊本県宇土(うと)市生まれ。1歳半で父を亡くし、親代わりとなった長兄の仕事に伴い、旧満州や日本国内で転居を繰り返した。だから、故郷の記憶がほとんどない。潜伏キリシタンを描くようになったのは、偶然だった。

 東京芸術大学に進むと、浜辺の漁師が生き生きと働く姿にひかれ、好んで画題に採り上げ始めた。ある日、漁師をスケッチしようと熊本を旅していたときのこと。首から十字架をかけた漁師に出会った。漁師は「教会のミサに行くのだ」と教えてくれた。

神父との出会い

 漁師に紹介されたのが、天草の崎津教会。崎津集落は潜伏キリシタンが信仰を守ってきたことで知られる。神父と親しくなったことがきっかけでミサに顔を出し、彼らを描くようになった。「崎津教会は机と椅子があるのではなく、畳にひざまずいて祈りを捧げているのが印象的だった」

 教会で祈る人、天草四郎ら歴史上の人物、殉教者が投げ込まれたという海――。「潜伏キリシタン」シリーズをライフワークとし、対象や技法を広げながら様々なものを描いた。これらの作品は、再興院展で日本美術院賞(大観賞)を受けるなど高く評価されてきた。

厳しい歴史感じる出来事

 作品にするための取材で、潜伏キリシタンが歩んできた厳しい歴史を感じる出来事も多かった。ある土地で知り合った高齢の女性に「教会に行くのですか」と話しかけると、「仏教徒です」と返ってきた。ところが、その後、教会でばったり出会ってしまった。「迫害を受けるから、ずっと隠してきたのだとわかった。家の中の祭壇をわざと粗末な感じにして、一見して祭壇だとわからないようにしている人もいた」

 さらに、自身も潜伏キリシタンと縁があることがわかった。「故郷の墓には墓石がない。ずっと不思議に思っていた。調べてみると先祖たちも潜伏キリシタンだった。迫害の過程で墓石を持って行かれてしまったことがわかった」

 いくつもの縁が重なって潜伏キリシタンを描いてきた小山さん。世界遺産の登録決定をニュースで知ったときは、うれしかったという。

名都美術館で展示

 世界遺産登録を記念し、名都美術館(愛知県長久手市)は、小山さんの「キリシタン」シリーズ6点を8月21日から9月24日まで展示する(月曜休館。9月17日は開館し18日休館、最終日は月曜だが開館)。来年1月からは第2弾として、びょうぶ作品を中心とした展示も予定している。(千葉恵理子)