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 電話や文字のやりとりだけでなく、調べ物、動画や音楽の視聴、ゲームなど、いまや生活に欠かせないスマートフォンやタブレット端末。育児の際に子どもに見せたり、子ども自身に使わせたりすると、子どもの成長に何か影響があるのでしょうか。夏休みに、子どもと電子メディアの関係について考えます。

心配だけど 困るとつい…

 子育て中の親たちは、実際、スマホをどう使い、どんな悩みがあるのか。生後1カ月の赤ちゃんから高校生の子どもを持つ女性たちの育児サークル「かしまま」(奈良県香芝市)のメンバーに聞きました。

 「うちの子、動画を見るのが好き」「うちも、うちも」と話は始まりました。スマホが手放せなくなってネット依存になったり、知らぬ間に有害な動画を見てしまったりしないよう、使わせ方に気を付けつつ、子どもとスマホとの距離感に悩むエピソードが続きます。

 2歳の娘がいる女性(30)は「出かける支度を急いでいるときにスマホを見せてしまう」と話します。1歳半ごろから自分で画面をスライドできるようになり、子どもにふさわしくない動画を制限するユーチューブキッズを見せているそうです。5歳の娘がいる女性(37)も「いつまでも動画を見たがるので、切るタイミングに悩みます」と言います。小さなスマホの画面に集中するのは目に悪いのではないかと、見せるときはテレビに接続しているという人や、「時間」が分かるようになってタイマーが作動したらやめる約束で見せているという人もいました。

 出来ればスマホを見せたくないと考えている中で、多くあがったのが、飲食店や電車の中で周囲の人に不快に思われないよう、前もって子どもにスマホを与え、泣き出さないようにしているという声でした。

 米国で子育て経験のある女性(39)は「日本は子どもに冷たい気がする」と話します。米国ではレジに並んでいて子どもがぐずると、周りの人が「大丈夫だよ」とあやしてくれました。翻って日本では、歩きスマホの人がベビーカーに気付かず、ぶつかられそうになったり、子どもの泣き声に舌打ちされたと聞いたり。「嫌な思いをしないよう、先回りして自分で守るしかないと感じます」。また、スマホを使わせないできたのに帰省したときに祖母がゲームをさせてしまったという人もいました。

 「かしまま」は3月、「ママと子どものためのスマホでつながる講座」を開きました。メンバーから「スマホとどう付き合わせていけばいいのか」と心配の声があがっていたためです。12人が参加しました。

 講師は子どもとネットの付き合い方について啓発活動に取り組む「ソーシャルメディア研究会」の石川千明さん(51)。石川さんはゲーム制作会社勤務の後、学校などでの情報モラル教育やネットトラブルの相談に携わっています。育児支援のボランティアグループも立ち上げて活動しています。

 石川さんは、LINEでのトラブルや、ネットで知り合った人と日常的にやり取りすることは珍しいことではなくなっていることなど、子どもたちの今を伝え、「ネットとリアルの境目があいまいになっていて、あったことをすぐにSNSに書き、ネットで知り合った人と出会うことに抵抗がありません」。一方で、動画サイトに子どもの学校での様子を学校名つきで投稿するなど、保護者自身の行動にも注意を促しました。また、石川さんは「ネットで失敗した子どもたちの背景に日常生活で寂しさを感じている姿が見えます」と指摘します。

 「お父さんは休みの日はスマホでゲームをしている。お母さんは僕の顔を見ずにスマホばかり見ている」と話してくれた子どもがいたことを紹介し、スマホの使い方といった技術的なことではなく、人として守るべきルールを教えることと子どもの心を育てることが大切だと話し、リアルなコミュニケーションや様々な体験が子どもを育てると話しました。「スマホを持たずに子どもと外出したら、これまでスマホでふさがっていた手を子どもとつなげた。すると子どもがうれしそうに笑ってくれたと報告してくれたお母さんがいた」というエピソードが印象的でした。「ネットで困ったことが起きたときに相談できるように、私にでもいいですし、相談先を見つけておくことも大切です」

使うなら なるべく一緒に 中島匡博・中島こどもクリニック院長

 子どもと電子メディアの関係について考えるようになったのは10年以上前です。月曜日の午前中に「頭が痛い」「体がだるい」と体調不良を訴える子どもが多く受診するようになりました。生活ぶりを聞くと、週末夜遅くまでテレビやビデオを見ていました。最近はテレビがネットにつながったスマートフォンやタブレット端末に変わりました。使い始めも低年齢化しています。

 乳幼児にスマホのアプリや動画を見せることで、親子がお互いに目を合わせ、スキンシップをし、愛着形成や子どもの健全な成長を助ける時間が減ります。子どもが手で触ったり、なめたり、匂いをかいだりして五感を発達させる時間も減ります。

 子どもは走ったりボールなどで遊んだりして体の動かし方やバランスのとり方を習得し、動体視力なども発達します。大勢で遊ぶ中で友だちづきあいの仕方も学んでいきますが、そういった機会も減ります。

 家事をする際、子どもがおとなしくしているようにとスマホなどを見せる保護者がいます。口に入れても安全な小麦粉で作った粘土や、けがをする恐れのない段ボール箱や新聞紙で遊ばせるなど、動画以外の方法も工夫してみて下さい。

 もっとも、すべてがスマホのせいだというわけではありません。最近の公園は遊具が撤去され、ボール遊びなどを禁止するところが増えています。子どもが外遊びしたくなる場所を増やす必要もあると考えます。

 また、育児に一切、スマホを使うべきではないというわけでもありません。子どものおなかの調子が心配な時、スマホでうんちを撮影してきて医師に見せるなど、情報を伝えたり、交換したりするのに使うのは有用な利用法だと思います。遠くに住む祖父母とテレビ電話で話すのもいいですね。

 スマホが今の生活に欠かせないのは事実です。ただし、子どもが小さなうちは、どの動画やアプリをどれぐらいの時間見せるのか保護者がしっかり管理し、なるべく一緒に見たり使ったりするべきです。子どもの使うスマホには見せたくないサイトにつながらないようにするフィルタリングを必ずセットし、親のクレジットカード情報も入れないで下さい。使用時間を制限すると同時に、それ以外の時間をどう使うのかも考えてあげましょう。

 子どもが中学生ぐらいになったら、まず自分で使い方を考えさせ、それをもとに親子で話し合い、「夜10時以降は使わない」などのルールと、約束を破ったらスマホの使用を3日間禁止といった罰則も決めたうえで、使わせたらいいと思います。

 電子メディアはどんどん進化しており、10年後にどんなメディアが普及しているか予測できません。科学的な根拠が示されるまで対策をとらないのでは手遅れになるおそれがあります。予防原則で早めに対応すべきだと考えます。負の影響もあるという影の部分を知った上で関わり方を考えたいものです。

悪者扱い 親を追い詰める 森戸やすみ・さくらが丘小児科クリニック医師

 「子育てアプリをみせると赤ちゃんの成長がゆがむ」「(母親が)授乳中にスマホを見ると赤ちゃんの脳に障害が生じる」――。育児サイトなどには、スマホやタブレット端末などの電子メディアを悪者扱いし、保護者を脅す言葉があふれています。

 しかし、スマホなどの悪影響で因果関係がある程度科学的にわかっているのは、長時間見続けた場合の視力の低下だけではないでしょうか。しかもこれはスマホに限りません。本だって近距離で長時間読めば、目が悪くなるおそれはあります。

 乳幼児は五感を使った遊びが大切だと言われます。異論はありませんが、本も視覚しか使わないのに子どもの読書に警鐘をならす人はいません。テレビもそうでしたが、いつの時代も新しく登場したものに警鐘を鳴らしたがる人がいます。しかし多くは、悪影響が出るのは度が過ぎた場合です。電車でスマホを見せたり、授乳中にスマホを見たりする程度は目くじらを立てるほどのことではないと思います。

 使う時間の長さに関係無く警告を発し、育児中の保護者にスマホの使用に罪悪感を抱かせるような風潮は、悩みの多い保護者をますます追い詰めてしまうと懸念します。

 スマホがあるから孤独に陥らずにすんでいるママが大勢いる現状にも目を向けるべきです。その一つがツイッター。「#2018feb_baby」といったように「#(出産年、出産月の英語の最初の3文字)_baby」と入力するだけで全国のママとつながって、真夜中に泣く赤ちゃんを寝かしつけようとしているのは自分ひとりじゃない、と癒やされるのです。

 私のクリニックには、育児の悩みの解決法をスマホで調べようとして、ネット上にある様々な情報のどれを信じればいいのかわからず、「スマホ検索地獄」に陥っている人が来ます。英国や米国では政府機関が授乳や予防接種など育児全般についてわかりやすく情報提供しています。日本でも政府などが信頼できる育児情報をわかりやすく提供して欲しいです。厚生労働省などPDFファイルの多いサイトはスマホで見るのに向きません。

 スマホのアプリには、子どもの興味の幅を広げてくれるものもあります。以前は、仲間から「昆虫博士」と呼ばれるような特別に昆虫好きの子どもだけが虫に詳しかったのに、今は多種類の昆虫が登場するゲームアプリがあり、昆虫好きではなくてもそのゲームで遊ぶ子どもは驚くほど多くの昆虫を知っています。

 現代社会は、パソコンやスマホなどが使えなければ学業にも仕事にも日常生活にも支障が出ます。自分で責任をとらなければならない成人になってスマホを使い始め、取り返しのつかない失敗をするよりは、何かあったら保護者に守ってもらえる未成年のうちに大人の指導のもとでスマホを使い始め、小さな失敗をしながら適正な使い方を学んでいく方が安全だと思います。

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 「子育てに社会が無関心だ」という声を聞き、はっとしました。いくら家庭でスマホとの適切な付き合い方に取り組んでも、外で「少しでも泣かせられない」となれば、スマホであやさざるを得なくなります。孫を喜ばせようと祖父母がスマホを使わせてしまうケースもあります。子育て中の人たちだけが関心を持っていても解決しないと感じました。(山田佳奈)

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 朝日新聞は7月、生まれた時からネットやスマホに接している子どもたちを描く企画「ネットネイティブ」を始め、まずゲーム依存症などのリスクを取り上げました。子どもの1年は大人の1年と重みが違います。依存症で貴重な子ども時代の時間を失わないよう、スマホを使わせる際には大人のかかわりが欠かせないのではないでしょうか。(大岩ゆり)

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