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 国連開発計画(UNDP)で中東・アフリカのアラブ諸国を担当するムラッド・ワフバ局長(59)が27日、東京都内で朝日新聞と会見した。内戦が続くシリアについて、「生活再建は戦後に始まるのではない」と強調し、難民・国内避難民の雇用と戦闘で破壊されたインフラの整備復旧に力を入れる考えを示した。

 ワフバ氏は、シリアでの喫緊の課題として発電所の整備復旧を挙げ、「電力がなければ病院や学校が機能せず、難民が戻る環境を整備できない」と指摘。日本政府はUNDPを通じて発電所の稼働に必要な部品を提供しており、ワフバ氏は「アサド政権支配地域、反体制派支配地域を分け隔てなく支援している。人道的見地からも重要だ」と日本政府に感謝した。

 また、ロシアとイランの支援を受けて優勢を保つアサド政権については、「体制継続を達成しそうだ」との見方を示したが、同国南部で今月下旬、過激派組織「イスラム国」(IS)による連続自爆攻撃で住民や政権軍兵士ら246人が死亡したことを挙げて、「戦闘はすぐには終わらないだろう」と述べた。

 国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、2018年前半の半年間にシリア難民約1万3千人が帰国。ワフバ氏によると、UNDPは戦闘が激しかった地域で、崩壊した建物のコンクリート片撤去やごみ収集の事業を展開し、帰国した難民や国内避難民の雇用創出を支援しているという。

 また、シリアの西隣のレバノンは人口約600万人で、シリア難民を約100万人受け入れており、負担は限界だと指摘。「国際社会はレバノンも支援しなければならない。そうしないと、両国の摩擦が強まる」と警告した。(井上亮)

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 ムラッド・ワフバ局長との主なやり取りは以下の通り。

 ――シリアでは7年にわたり混迷が続いています。

 「三つの側面がある。発端は2011年のアラブの春。シリアでも特に若者の不満がたまっていた。教育を受けていても仕事がなく、自由を主張した。二つ目は環境の変化。干ばつで水が不足し作物が取れなくなった。都会にも地方にも仕事がなくなった。初め国民は政権打倒を目指していたわけではなかったが、国外勢力や過激派組織『IS』の台頭で状況が複雑になった」

 ――シリア内戦でアサド政権の勝利が近いと報じるメディアもあります。

 「勝利とは何でしょうか。この紛争に勝者はいない。アサド政権は確かに支配地域を増やしており、体制の継続を達成しそうだ。ただ、最近、南部でISの自爆テロが相次ぎ、場所によってはまだ不安定だ」

 「首都ダマスカス中心部はあまり破壊されていない。一方、北部のアレッポやラッカはとても激しく破壊された。だがこの内戦の代償は建物の破壊ではない。多くの死者をはじめとした人的被害だ。建物は再建できる」

 ――UNDPはシリアでどのような支援活動をしているのですか。

 「私たちの役割はシリアの中と外で大きく二つある。シリア内での目的は地域の安定と人道支援。そのためNGOと一緒に雇用を提供している。戦闘で発生したがれきの撤去やごみ収集などだ。また職業訓練や小規模な事業の起業支援などもしている」

 「シリアの外では、シリア難民はもちろん受け入れ側の住民も支援する。例えばレバノンは人口600万人だが、レバノンで難民登録しているシリア人は約100万人いる。子どもが増え、学校や病院など社会インフラが足りなくなっている。レバノン人の不満もたまり、両者の間に摩擦が生まれてしまう。ヨルダンとトルコでも同じ活動をしている」

 ――報道によると、多くの難民がシリアに戻り始めています。

 「電気も学校も病院もないなかでは、国連は帰国を勧めていない。まだ多くの人が帰れる状況にはない」

 「日本政府は国連機関を通じて支援に取り組んでいる。がれきの撤去や壊れた水道管の修理など。発電所の整備復旧でも協力してもらい大きな貢献をしている。今回の来日で日本政府に感謝を伝えた。電力がなければ病院も学校も動かない。日本の技術力は高いが、一番重要なのは政権の支配地域や反体制派地域など分け隔てなく支援していることだ。このポリシーは人道的見地からも重要だ」

 ――ロシア、米国、欧州など各国の思惑が交錯する中、UNDPとしては今後どのように支援に取り組むのですか。

 「我々は政治的理由では動かない。あくまでシリア難民や受け入れ国が、日常生活を取り戻すための人道支援に集中する。シリアの人々の生活再建は戦後に始まるわけではない。インフラ面や人的支援を必要な限り続ける。すぐには戦闘は終わらないだろうが、シリアの人々が自分たちで生活再建を成し遂げられるよう、その機会を提供しつづけたい」