[PR]

 加賀産業開発道路を南に折れ、丘陵地を縫うように車を走らせること数分。無造作に彫刻が並ぶ軒下や傾いたアトリエなど、個性的な建築群が現れる。石川県能美市のいしかわ動物園にほど近い、ここ「辰口アーティスト村」では、芸術家たちが静かに暮らしと美を紡いでいる。

 住人第1号の山下晴子さん(66)は、旧鳥越村(白山市)出身の彫刻家だ。美大卒業後にイタリアで修業し、1986年に帰国。東京や関西圏で自宅兼アトリエを構える場所を探していた時、旧辰口町から広大な町有地の一角を紹介され、90年に移住した。

 「その頃、文化を核に地域おこしをしようという空気が濃かった」。さらに数人の芸術家たちが口コミで集まり、自然発生的に「アーティスト村」が誕生。幾度かの入れ替わりを経て今、村には画家や陶芸家、加賀蒔絵(まきえ)職人など12戸の制作場所や住まいがある。

 「ものをつくる者としての共通意識があるので居心地がいい」。個展の告知はがきのデザインを相談したり、素材の発注先を紹介してもらったり。ただ、「グループを組むのは好きじゃない」と山下さん。「みんな個性があるし分野も違う。互いの生き方や制作の仕方を尊敬しつつ、それぞれ独立している」と話す。

 住人は行政からの「自立」も重視している。土地は借りるのではなく購入しており、辰口アーティスト村として県や市からの補助は受けないという。「文化と行政がどこで接点を持つかは難しい。制作活動がどこかにおんぶしてはダメ」。だが、芸術で食べていくのは厳しい時代。山下さんが「成立するのは奇跡みたいなもの」と語るアーティスト村は、一種のユートピアのように思えた。(田中ゑれ奈)

案内 9月19~30日、山下晴子さんの個展「和に遊ぶ」が金沢市広坂1丁目の石川国際交流サロンで開かれる。発泡スチロールを素材に、自由な彫刻の表現を提案する。入場無料。24日は休館。問い合わせは山下さんにメール(haruko-y@sweet.ocn.ne.jp)で。