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 認知症の予防に関心が集まる一方、確実な手段はありません。「いつか誰でも認知症にかかる」ことを前提に、先送りを目指すことを考えたほうがいいと話す認知症介護研究・研修東京センター長の山口晴保さんに、認知症の受け入れ方について聞きました。

95歳以上の女性では8割超

 認知症の予防は、「認知症にならない」ことを意味しません。

 認知症になりやすくする要因は、運動不足や社会からの孤立など、いろいろとあります。しかし、最大のリスク要因は長生きをすることです。厚生労働省研究班が認知症を伴っていた人の割合を年代別に調べたところ、65~69歳の人は男性の2.8%、女性の3.8%だったのが、85~89歳だと男性の35%、女性の44%でした。95歳以上だと男性の51%、女性の84%にものぼっていました。

 アルツハイマー型認知症の原因としていまのところ有力なのが、脳に異常なたんぱく質がたまるなどして神経細胞が障害を受けるというものです。この異常たんぱく質は、早い人では40代からたまりはじめます。80代になると、認知機能が正常な人も含め9割以上にこのたんぱく質がみられるという研究もあります。正常な人でも原因物質が着々とたまっている可能性がある。この点からも、だれが認知症になってもおかしくないのです。私は以前、76歳で亡くなった天才物理学者アインシュタインの脳を調べたことがありますが、やはりアルツハイマー病に特徴的な神経細胞の変化が確認されました。

予防とは「先送り」 そしてどう生きるか

 認知症のリスクを下げるのに有力とみられる運動、血圧や血糖値の改善は、全身の健康状態をよくして寿命を延ばす方向、つまり認知症のリスクを結果的に高める方向に働きます。メディアにはよく「これをすれば認知症にならない」といった情報が登場しますが、正確ではありません。「ならない」わけではないのです。

 長生きをする以上、認知症を避けることは実際には難しい。英医学誌ランセットの報告書をみても、認知症の原因の3分の2は遺伝的要因といった、個人の努力ではどうしようもないものです。だから、いつかはだれでも認知症になると考えたほうがいい。そのうえで、予防に取り組むことでその時期を少しでも後ろにずらすことをめざす。予防とは「先送り」だと考えるべきです。これまでのさまざまな研究から、予防によって先送りすることは期待ができます。

 そして、長生きすればいつか認知症になることを含め、老いを受け入れたほうがいいと思います。

 歩行が不安定になって杖をすすめられても「年寄りにみられるのが恥ずかしい」と拒む人がいます。でも、杖をいやがることで結果的に歩く量が減り、筋力がさらに落ちてしまいがちです。無理をして自力だけで歩くことにこだわれば、転倒や骨折をして寝たきりになってしまうかもしれません。むしろ老いを受け入れて、補助具も使って安定して歩き続けられるようにしたほうが、筋力を維持してより高い生活の質を保てるでしょう。私は杖よりもむしろ歩行器を使ったほうがいいと思っていますが。

 認知症になっても、幸福感を抱いて楽しく過ごされている方もいます。「認知症イコール不幸」と決めつけるのは偏見です。日本人の寿命が延びたことを喜ぶのであれば、長寿と切り離せない認知症も受け入れていくべきです。

 何のために予防に取り組むのか。単に「認知症になるのを先送りしたい」では面白くありませんよね。先送りしてどう生きるのか、目標をもつことが大事です。私自身も、セラバンドというゴムチューブを持ち歩いて移動中にも筋肉を鍛えるなど、ふだんからなるべく体を動かすようにしていますが、死ぬまで働き続けていられるようにという目標でやっています。

 でもいつか、認知症になるかもしれません。そうなったら受け入れて、それからの日々もできるだけ楽しく過ごしたいと思っています。(聞き手・田村建二)