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 認知症を防ぐ確実な手段がない中、欧米で患者の割合が以前より減ったという報告があり、注目されています。福岡県久山町で高齢者らの疫学調査を続ける九州大医学研究院衛生・公衆衛生学分野教授の二宮利治さんに、日本人の健康意識の変化とこれからの予測について聞きました。

2050年には1千万人超えの推計も

 認知症の人の数がこれからどうなるかは、高齢者の数がどう増えていくかに加えて、高齢者のうち認知症になる方の割合がどうなるかで決まってきます。福岡県久山町で実施している私たちの調査では、高齢者の数はもちろん、認知症にかかる65歳以上の人の割合も増加傾向です。仮にこのままの状況で増加しつづけるとすると、2050年の認知症患者はほぼ800万人になり、場合によっては1千万人を超えると推計しています。

 日本で認知症の人が増えている要因を検討したところ、医療技術の進歩とケアの改善によって、認知症となった人の生存率が以前よりも高くなっていることが一因と考えられました。一方、久山町研究では認知症の発症率自体も上昇していることがわかっています。このため、発症率を上昇させている要因を明らかにして、予防していく必要があります。

 これまでの研究の結果、喫煙習慣や糖尿病、高血圧などの生活習慣病が、認知症の発症にかかわっていることが明らかになりました。さらに糖尿病や高血圧といった要因は、より若いころに起こしている人の方が脳に大きな障害を受けていることが判明しました。長い時間をかけてダメージが蓄積していき、高齢になってから認知症として症状に現れるのです。

 こうした研究結果は、高齢になったときに認知症になるかどうかは、中年のころ以降にどんな健康状態だったのかが関係することを示唆していると思います。中年期の方には「いま元気だからいい」ではなく、将来のリスクも考えて生活習慣に注意していただきたいと思います。とくに中年期の男性は、糖尿病や高血圧を治療せずに放置している方が多いようです。

健康意識の高まりで変化も

 認知症のリスクを下げるためには、よく体を動かして筋力を保つことがとても大事であることもわかってきました。筋力を保つことは生活習慣病などの予防に役立ちます。また筋力がないと活動量が減りやすく、「家に閉じこもりがち→人と会話しない→孤立感が深まる」といった形に陥りかねません。また、筋力を保つには運動するだけでなく、肉や魚に含まれるたんぱく質をしっかりとることが重要です。最近では、お年寄りだけでなく、若い女性でもやせて筋肉の少ない人が増えていることが心配です。

 欧米では、高齢化によって患者の数自体は増えているものの、認知症を発症する患者の割合が減少したという報告が複数出ています。データを注意深くみる必要があり、ただちに「認知症の割合が減った」と結論づけることはできませんが、注目すべき調査結果だと思います。理由ははっきりしませんが、教育の充実や全般的な健康状態が以前よりもよくなったことが関係していると推測されています。

 実は日本でも、これから認知症となる方の数は現在の予測より少なくなるのではないか、という期待感をもっています。

 いま認知症にかかりやすい75歳以上の方たちが中年期だった20~30年前を考えてみると、あくまで一般的な傾向ですが、平均的な血圧の値やたばこを吸う人の割合はいまよりも高く、糖尿病も増加傾向にありました。

 そのころに比べると、いまは日本人全体の健康への意識が大きく向上しました。血圧値や喫煙率はだいぶ下がり、糖尿病の治療も進歩しました。さらに、日常的に運動をする中高年の方もずいぶん多くなりました。このように人々の健康意識が高まったことで、これから75歳以上となる日本人が認知症にかかる割合は、いまよりも低くなる可能性はあるのではないかと思っています。

 認知症の有効な治療薬の開発が遅れていることから、認知症の予防に力を入れていくのはやはり大事だと考えます。同時に、認知症になった方たちがより住みやすい社会をつくっていくことの重要性も変わりません。(聞き手・田村建二)