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 だれもがなる可能性があり、長く付き合う病になりつつあるがん。どう伝え、受け止め、支え合えばいいのか、職場ではどう支援すればいいのか、みなさんと考えてきました。最終回は、私たちの社会が、患者それぞれの治療や働き方を尊重しながら、がんと共生していくにはどうすればいいのかを探ります。

 朝日新聞デジタルのアンケートに寄せられた声の一部を紹介します。

 

職場や周囲の理解、重要

●「結局、がん=死、という固定観念が全てをダメにしている。私は去年、会社をクビになりました。もちろん、クビ、という言葉は使われませんでしたが、治療のため、休職し、復職を申し出たところ、え?復職?治療に専念した方が良いよ!とのこと。何度か会社と話し合うと、それでも復職したいなら、まず転勤、もちろん、配置転換も。転勤なんて出来る訳ないです。通院している病院や主治医から離れることは出来ません。事実上のクビ宣告です。ちなみに、医療関係のメーカーです。そんな程度です。会社をクビになり、収入がゼロになりました。私は治療期間が約5年ですが、金銭的な問題で治療が出来なくなる日が来るのを、今、最も心配しています」(茨城県・40代男性)

 

●「再発治療中ですが、最初は主治医に休職を勧められました。経済的事情、近所の目、自宅に1人でこもることで精神的に参ってしまう自覚があったので、『無理をしない』条件付きで仕事を続けることになりました。幸いにも職場環境にも恵まれ、月の半分近く、場合によってはそれ以上の欠勤にも、周囲の皆さんの協力をいただいて仕事を続けてられています。それでも、治療の先は見えず、あと数カ月で傷病手当が切れたあとに不足していくだろう生活費の不安と子供たちに無理をさせている申し訳なさに、今はただ抗がん剤が効いてくれること、子供たちが自立するまでおとなしくしてくれることを祈るばかりです」(山形県・40代女性)

 

●「身内に治療経験者や没した人がいますが場合によってはとにかく費用がかかります。それにとても苦しそうでつらい。がんに限りませんが、寿命が延びているので、こうした病気になったとき今の日本で費用と治療と働くことのつり合いがどうなっているのかを若いうちから知っておくのは重要です」(東京都・50代男性)

 

●「7年前、子供が幼稚園の時に乳がんになり、子供の行事参加や友達とランチしたりとかいう世界から完全にシャットアウトされ、暑い時も家にいる時もずっと毎日ウィッグとマスクをして過ごすことがとても苦痛でした。毎日お風呂の鏡に映る自分の姿を見るのが嫌で、この屈辱感は一生忘れられません。周りから、抗がん剤治療が終われば髪の毛はすぐに生えてくるから頑張ってなんて言葉を安易に言って欲しくないと思いました。女性の場合はガンになったショックよりも髪の毛や眉毛、まつ毛が全て抜けてしまうことの方がショックは大きいと思いました。ガン患者のQOLの向上についてもっと勉強したいと思います」(神奈川県・50代女性)

 

●「幸い、私は会社の在宅勤務制度などを利用し、手術のための入院期間以外、化学療法期間を含め、会社を休むことなく、また業務内容を変えることなく、勤務を継続できました。会社の制度が充実していること、上司、同僚の理解など、環境の整備が重要だと思います。また、患者自身が疾患、治療、会社の制度などに関する正確な情報を得ることも重要です。患者にとって、診断告知、治療と患者自身の心が落ち着かない中で想定外の出来事が待ったなしの状況で進みます。その中で、状況を正しく理解できる相談者の存在も重要だと思います」(大阪府・50代女性)

●「12年前大腸がんが見つかり、肝臓、肺に転移、その後人工肛門(こうもん)閉鎖を含め5度の手術を受け現在目に見えるがんはなく元気に暮らしています。自営のため近しいスタッフ以外には詳細を伝えずその都度入院していました。闘病真っ最中には偏見が恐ろしくまわりには話せませんでした。自営のため入院休養の度に収入は減り、病院代など出費が重なりましたが国民健康保険の制度だけでもありがたく思いました」(愛知県・50代女性)

 

●「治療にはお金がいくらあっても足りません。なので、少しでも収入を得たいと思う方が多いと思います。しかし、働きたくても体調が思わしくなく働けない、職場の理解を得られず辞職せざるを得ない状況もあります。正社員で働いていれば傷病手当等の支給もありますが、もちろん、満額支給ではないですし、私のようにパート、アルバイトとなるとそのような補償はありません。ただ、幸いにも私の勤務先は上司や同僚が治療に理解を示して下さっており、体調最優先での勤務でいいとおっしゃって頂いているので、治療後の副作用が辛(つら)い時はゆっくりと休ませていただいています。多くの方が、治療しながら臆することなく働ける理解ある職場が増えることを切に望みます」(石川県・40代女性)

 

●「6年半前(当時:私34歳、子5歳、子2歳)に乳がん(ステージ3c)だと診断されました。正職員として10年ほど勤めていた会社にはがんの告知を受けたこと、仕事を続けたいことを伝えました。入院、2度の手術、抗がん剤、放射線、ホルモン療法で現在も投薬を受けています。抗がん剤中のみ休職し、復職し現在に至ります。私の場合は、夫の理解、子の存在、実母との同居、正社員など、環境が恵まれていたのでこれまでやってこれたと思います。社会的につながりの弱い方への支援が必要だと感じます。子はTVなどでがんで亡くなる人に私を重ね、とても不安になるようです。がん患者への支援と共に家族への支援も重要だと感じています」(愛知県・40代女性)

患者や企業の実例、共有

 がん治療中や治療後でも働きやすい職場・社会を作ろうと昨年10月、企業経営者やNPO法人代表ら有志7人が「がんアライ部」というプロジェクトを立ち上げました。アライ部はALIVE(生き抜く)とALLY(味方)を掛けており、企業の垣根を越えて部活動のようにつながり合うことを目指しています。

 設立後、さまざまな企業の人事・総務担当や管理職が参加する勉強会を、東京都内で3回にわたり開催。延べ100人以上が参加しました。2部構成が特徴で、まずレクチャーで「がんと就労」の現状や患者の気持ち、企業の対応の事例などを学び、後半は班に分かれて異なる業種の人たちとやりとりしました。

 初回の講師は、アライ部の発起人の一人で、がん患者の就労を支援する一般社団法人「CSRプロジェクト」代表理事の桜井なおみさん(51)。参加者に、軍手とゴム手袋をはめてもらい、指先のしびれの副作用を疑似体験してもらいました。その上で、自らの乳がん体験や、調査した結果をもとに、「離職には、診断後1カ月以内にショックで辞める場合と、治療が一段落して復職後に副作用や後遺症が理由で辞める場合がある」「診断から1年以内は薬の治療が多く重い倦怠(けんたい)感などの副作用を伴う場合がある」「副作用は短期のものと、しびれなど長く残るものがある」などと解説。また、離職を防ぐポイントとして「短時間勤務」「時間単位の休暇制度」「在宅ワーク」を挙げました。

 今年5月の3回目の勉強会では、アライ部代表発起人の岩瀬大輔氏(42)が会長を務めるライフネット生命が、就業規程を公開。「復職後に12日間の休暇と月5万円の手当を6カ月間支給」「家族など大切な人が病気になったら最大3日間の休暇。使いきれない場合は会社が2年間積み立て、困っている他の社員が更に10日間取得可」といった独自の手厚い支援制度を紹介しました。

 別のサービス業の企業も、がん検診費用の補助制度や、「女性特有の疾患と休職時に使える制度に関するセミナー」などの試みをプレゼンしました。

 勉強会の中身は、関連する情報を含めWEBサイト(https://www.gan-ally-bu.com/別ウインドウで開きます)で発信しています。次回の勉強会は8月2日、社会保険労務士が、実例を基に語ります。また現在、「がんとともに働き続けられる企業」であることを宣言する企業を募り、先進的な取り組みも募集しています。好事例を表彰し、広く知らせる予定です。

      ◇

 岩瀬会長と共に代表発起人を務める功能(こうの)聡子さんは、アジア諸国への社会的投資を広げる「ARUN合同会社」の代表です。出版社で管理職をしていた夫の山岡鉄也さんを肺腺がんで亡くしました。

 8年前、山岡さんはステージ4で病気が分かり、治療で休んだ後に復職。「働くがん患者支援の情報を発信する」という国立がん研究センターの委託事業を担当しました。「仕事が生きがいでした。自分も治療を受けながら働く夫は、経験を生かせる新たなミッションと受け止めて打ち込みました」と功能さんは振り返ります。

 「治療費以外にも交通費や訪問看護など、びっくりするほどお金がかかる。経済的不安を減らす意味でも、働き続けることは大事でした」

 山岡さんが昨夏、56歳で亡くなった後、アライ部の代表発起人を引き受けたのは、「夫が情熱を注いだテーマでしたし、誰もが何かしらの力を生かせる社会にしたいという私の強い思いもあって」と言います。

 「民間の横のつながりで、仕事と治療を両立しやすくする動きを広げていきたい。部活ですから、ぜひ多くの人に気軽に参加してほしい」(上野創)

多様な働き方ができる社会に 国立がん研究センターがん対策情報センター長・若尾文彦さん

 がんが長く付き合う病に変化する中、治療と仕事の両立は大きな課題です。2016年に厚生労働省は、環境整備の取り組みを企業向けにまとめたガイドラインをつくりました。治療に通いやすいよう、時間単位の年休取得や時差出勤、在宅勤務などの制度を設けることを企業に求めています。少しずつ広がってきましたが、導入している企業はまだわずかです。

 がんになる人を年齢や性別でみると、30代後半から50代前半までは女性が高く、男性は50代後半から増えます。女性の社会進出や、定年延長もあり、治療しながら働く人が身近にいることは今後増えてきます。

 色々な人が多様な働き方をできる社会にしていくことが大切です。そのためには、皆ががんに関心を持ち、正しい知識を持つ必要があります。職場に保健師を派遣してがんについて話をする取り組みをする自治体もあります。会社員だけでなく自営業や農業、漁業に携わる人、非正規雇用の人などあらゆる人ががんになる可能性があります。全ての人へのサポートを忘れてはいけません。

 治療と暮らしの両立には、一つの正解があるわけではなく、バリエーションがあり、多様性を受け入れられる社会である必要があります。病気や仕事、会社の状態はそれぞれ。いかに最適化するか、一人ひとりに対応していくことが大切です。

 センターのホームページ「がん情報サービス」では、「がんと仕事のQ&A」(https://ganjoho.jp/public/support/work/qa/別ウインドウで開きます)を公開しています。治療を選択しながらの仕事や生活の段取りなど毎日の暮らしの悩みについて、体験談を元に対応策を示しています。自分らしい働き方を見つけるヒントにしてください。

 

<アピタル:オピニオン・メイン記事>

http://www.asahi.com/apital/forum/opinion/(聞き手・月舘彩子)