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 ケガをした時に、傷口を食品用ラップフィルムで覆う、という話を耳にしたことはありますか。「ラップ療法」などと呼ばれ、過去には是非を巡って論争が巻き起こりました。命に関わる合併症を引き起こす恐れもあり、特にやけどには「絶対に使わないで」と医師たちが警鐘を鳴らしています。

いわゆるラップ療法とは何か

 傷口を食品用のラップフィルムで覆う「ラップ療法」は、2000年ごろから、褥瘡(じょくそう)ケアの現場などで、傷を乾かさず湿潤環境において治す目的で用いられはじめた。その後、やけどや傷にも使えるとしてインターネットで広まった。

 ところが、「どんな傷も治せる万能薬」といった誤った考え方が一人歩き。傷の治癒について十分な知識の無い医師や個人が使った結果、やけどの症状が悪化するなどのケースが出て問題になった。

 ラップで覆えば、確かに傷は乾燥しない。だが、ラップは水や水蒸気をまったく通さず、吸水力もないため、傷口を適切な環境に保つのは難しい。適切な環境に保てないと、細菌感染や傷の周りの皮膚にトラブルが起こるリスクも高まる。

日本熱傷学会「絶対に使うべからず」

 日本熱傷学会は2012年に、特別委員会を立ち上げて、ラップの使われ方の実態調査をした。その結果、トラブルが全国で49例確認された。その中には、傷口で増えた細菌が全身に回って起こる敗血症になった事例が10例あり、死亡例や、患部が腐って足を切断したケースもあった。

 学会は同年、やけどの治療でラップを使うことは「厳しく制限されるべきである」「特に乳幼児には決して用いてはならない」とする見解を発表。特に、乳幼児が感染症になると、細菌がつくる毒素によってショック状態に陥るリスクも高いので、絶対に使うべきではないという。

 

 日本大学の仲沢弘明教授(形成外科)は「やけどは、たとえ小範囲であっても感染を起こすと死を招くことがある」と指摘する。

日本褥瘡学会「やむを得ない場合は考慮してもよい」

 これより先に日本褥瘡学会が2010年に、褥瘡にラップを用いることについて見解を示したが、日本熱傷学会とは少し立場は異なる。「いわゆる『ラップ療法』に関する日本褥瘡学会理事会見解」という声明の中で、十分な知識と経験を持った医師の責任の下で、という条件に限って「医療用として認可された創傷被覆材の継続使用が困難な在宅などの療養環境において使用することを考慮してもよい」としている。どういうことだろう。

 そもそも、褥瘡ケアの現場でラップの使用が広がった背景には、経済的な事情もあった。国に認可された医療材料(傷口にあてがうパッドなどの創傷被覆材)が高価なうえ、医師が往診などで処置をする場合にしか公的医療保険が適用されない、最大3週間までしか使えないなど、費用や制度の面から使いにくい実情があった。

 また、やけどなどの急性の傷に比べて、褥瘡は慢性疾患に近く、患者は、細菌感染へのリスクが高い子どもというよりは主に高齢者という側面もある。同学会の川上重彦理事長は「決して推奨はしていません。でも、在宅医療の状況を考えると、絶対に使うなとまではいえない。経験のある医師の下で、やむを得ない場合に限って、追認をした」と話す。

公的保険の制度見直しもすすんだ

 褥瘡をめぐっては、近年、ラップとは異なる正式な医療材料(創傷被覆剤)の診療報酬の見直しも進んできた。正式な創傷被覆材も、一定の条件を満たせば、患者が自宅で自分で使う分を医師が「処方」できるようになってきている。

 また、湿潤療法を意識した、ラップに代わる安価な衛生用品も開発され、市販されている。川上さんは「徐々に状況は改善してきています」。

 

普通のケガには?

 もし、急なケガなどで食品用のラップフィルム以外に手元に何もないときに、傷を保護する応急処置として使うことまでは、川上さんは否定しないという。ただその場合は、24時間以内に医療機関を受診したほうがよい。食品用ラップは水や水蒸気を通さず、吸水力もないため、川上さんは「傷の保護としては許容できるが、治療の目的で使うべきではありません」と話した。

 もちろん、国の認可を受けた材料でも、使い方を間違えばトラブルにつながる。「どんな傷も治せる万能薬」はなく、傷の状態に合わせてその都度、適切な治療法を選択することの大切さも、忘れないでおきたい。

 

<アピタル:医療と健康のホント>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/honto/(鈴木彩子)

鈴木彩子

鈴木彩子(すずき・あやこ) 朝日新聞記者

2003年朝日新聞社入社。高松総局、静岡総局、東京本社科学医療部、名古屋本社報道センターなどをへて、2016年4月からアピタル編集部員。