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(6日、高校野球 沖学園4―2北照)

 野球に飢えていた少年が最高の舞台で躍動した。北照(南北海道)に競り勝ち、初出場で1勝をつかみ取った沖学園(南福岡)。守備の要としてチームを引っ張った捕手の平川夏毅君(3年)の原点は、幼い頃に1人で壁に向かってボールを投げ続けた壁当てだ。

 五回、先頭打者で直球をたたくとワンバウンドしたボールが三塁手の頭を越えた。全力で一塁を回り、めったにしないヘッドスライディングで二塁へ。ユニホームを泥だらけにした。

 アニメの「メジャー」を見て、野球が好きになった。小学生の頃、自分で三つのチームの指導者に練習場所と時間を聞いてまわったこともある。

 家庭は経済的に苦しかった。母の理香子さん(37)はバセドウ病で、月1度の通院が必要。ファミレスで働きながら、女手一つで2人の息子を育てた。平川君は二つ下の弟と、店の控室で母の仕事が終わるのを待っていたこともある。

 チームには入れなかったが、1人で野球を楽しんだ。道具はソフトボールチームの監督をしたこともある祖父の誠一さん(67)からもらった。色あせたグラブに軟式ボール、子どもはあまり使わない木製バット。ゴミ置き場のブロックで壁当てしたり、公園でノックを打って自分で拾いに行ったりする遊びをやった。中学でようやく野球部へ。仲間たちと思いっきりグラウンドを駆け回った。

 沖学園への進学を打ち明けられた理香子さんは「私学はお金がかかる」と悩んだ。「本気で、やらせてほしい」と何度もお願いする姿に「子どもの頃から『あれがほしい』と言われた記憶がない。それほどまでに」と最後は根負けした。

 たった1人で壁当てをしていた俺が、甲子園でヒットまで打てるなんて――。次は「最強世代」とも言われる3年生が集まる大阪桐蔭と戦う。「あの頃を思うと、今は奇跡ですよね」

 理香子さんに、感謝の言葉はまだ伝えない。「自分はまだ6年しか野球をやっていない。ありがとう、は全部終わってから。次も勝って、遠くからでもお母さんに喜んでもらいたい」(角詠之)

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