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 8月下旬から9月上旬の夏休み明け近くは、子どもの自殺が多くなる傾向がある。「学校に行くのがつらい」。そう思い悩む子どもたちの力になれればと、不登校や引きこもりを経験した若者たちが動き始めた。

 内閣府の調査によると、1972~2013年の42年間に自殺した18歳以下の子どもは1万8048人で、日付別で最も多かったのは9月1日(131人)。夏休み明けが近づく8月20日以降は連日50人を超えた。自殺総合対策推進センターが7月下旬から9月下旬にかけての06~15年度の数字を分析したところ、8月下旬に自殺者数のピークがみられた。

 「子どもの自殺が多い9月1日を前に何かしたい」。不登校や引きこもりの現状を伝える「不登校新聞」(発行元・NPO法人全国不登校新聞社)に、ポプラ社からこんな相談があり、今月2日、「学校に行きたくない君へ」が出版された。同紙の子ども若者編集部の記者たちが著名人にインタビューした記事から、20人分を載せる形で書籍化。記者は不登校や引きこもりの経験者らで、ボランティアで新聞製作に携わっている。

 棋士の羽生善治さん、イラストレーターのリリー・フランキーさん、漫画家の萩尾望都さん……。インタビュー相手は多彩だ。「自分の姿をさらけ出して繰り出した記者たちの質問に、本気で答えてくれた」と、不登校新聞の石井志昂(しこう)編集長(36)は言う。「1冊の中には、ピンとくる言葉があるはず。そしてそれはきっと、あなたのために発信された言葉です」

 例えば、作家の玄侑宗久さん。「不登校というのは少数派。少数派としてどう生きていけばいいのか」という問いにこう答えた。「少数派、大多数派というものがあると想定していること自体、すでに国からの見方。でも、国の見方から外れれば『人それぞれ』というのが当たり前」

 「『夜明け前の夜が一番暗い』というのは真理でしょう。でも『明けない夜はない』というのもまた真理だ」。不登校新聞のインタビューでこう語った漫画家の山田玲司さん(52)は、「頑張って家を出るなと言いたい。学校以外の選択肢はたくさんある。5年たてば社会も変わる。社会にはたくさんの『親』がいるし、過去の偉人にも学べる。正しいと思う誰かを探し続けてほしい」と話す。

 都内在住の女性(32)は、俳優の樹木希林さんと東大教授の安冨歩さんに取材した。樹木さんが「ありがたいは、難が有ると書く。難を受けながら成熟していく」、安冨さんは「不登校は全く問題じゃない」「最低限のお金と友達。この二つがあればなんとかなる」と明快に答えてくれたことが印象的だったという。

 女性は、入学した私立高の雰囲気が合わず、1年から不登校に。8月後半になると「学校に行かないと」と思って気が沈み、体調も悪くなった。ふさぎ込む親の姿に「親のためにも行こう」と思っても、体が動かない。「不登校だった頃、『行かなくてもいいよ』と言ってくれた人はいなかった。当時の私がほしかった言葉が、この本にはある」

 こども教育支援財団(東京)も10日から、漫画「1ミリの1歩」をネット上で無料公開している。夏休み明けを前に、学校や友人関係に悩む子どもたちに寄り添うことができればと、不登校経験がある女子高生ら4人がペンを走らせた。題名には、たとえ他の人からは小さな一歩にみえたとしても、その一歩を応援したいとの気持ちを込めた。

 「周りの目が怖い」「心は(学校に)『行かないと』と思っているのに、体は動かない」……。4人は自らの体験を振り返りながら、絵コンテを描き出したという。

 漫画は、「不登校のきっかけ」「学校以外の居場所」「高校進学と未来」など5章からなり、作者のメッセージも添えられている。作者の一人、千葉県在住の大学生梅木歩実さんはこう書いた。「学校に行きたいけど、周りの人間関係や自分との葛藤で心を閉ざしてしまっている子がいるならば、いったん今いる学校のことは置いておいて、他のたくさんの人と出会い、そこから明るい人生を見つけて」

 同財団の塚越絵美子さん(34)は「先生たちにもぜひ読んでもらいたい。どういう心理でいるのか、当事者の気持ちをもっと知ってほしい」と話している。(山下知子、張守男、松川希実)