慢心を容赦なく戒める「ヘボーズ」 下手でもベンチ入り

堀之内健史
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 常葉大菊川(静岡)は14日午前、日南学園(宮崎)との2回戦で競り勝ち、5年ぶりのベスト16入りを決めた。一時はどん底に落ちたチームの危機を救ったのは、レギュラーではない控え選手たちだった。

 「振っていこう!」

 この日もベンチから、ひときわ大きな声で盛り上げたのは田原綾将君(3年)と竹内智哉君(同)だ。

 常葉大菊川は昨秋の県大会で準優勝。しかし「チームに慢心が生まれた」(主将の奈良間大己君)。春は県大会準々決勝で敗れた。

 レギュラーが気の抜けたプレーをする、それを誰も指摘しない――。春の大会後、緊張感を欠く状況を見かねた高橋利和監督(32)が田原君と竹内君ら補欠の6人を集めて言った。「お前らがチームをまとめろ」

 いい加減だったり、気持ちの入っていないプレーを見せたりした時、容赦なく指摘する役割を課した。レギュラーではないが、チームを立て直すための重要な仕事。6人は自らを「ヘボーズ」と名付けた。

 先頭に立ったのが田原君と竹内君だ。田原君は「レギュラーになるのは実力的に難しいと諦めた」。でもこのチームで勝ちたい気持ちは変わらない。「勝つためなら自分が嫌われてもいい」と決心した。

 早速ヘボーズは動いた。「軽いプレーするならノックに参加するな!」「体で止めろよ!」。言葉に説得力を持たせるため、誰よりも泥臭くプレーしたのもヘボーズだった。竹内君はノックで球に届かなくても飛びついた。捕れないと、高橋監督に両手を思い切り上げて叫んだ。「来いや!」

 練習に今までなかった緊張感が生まれた。高橋監督は言う。「普通は自分よりうまいやつには言えない。だからこそ言える彼らはすごい」。試合ではヘボーズは、盛り上げ役に徹する。凡打に倒れた選手には拍手し、笑顔で迎える。逆転されても「こんなもんだよ!菊川らしくいこう!」。誰よりも声を出し続けた。

 甲子園で高橋監督は、実力的には上の選手もいたが、2人をベンチに置いた。ヘボーズの存在がチームに欠かせないほど大きくなっていたから。「下手でもチームに貢献すればベンチに入れる。それを後輩たちに示してくれた」

 日南学園との一戦は投手戦に。六回の適時打が流れを引き寄せた。「ベンチみんなで打たせようと声を出した。チームの良さが出せた」と田原君。適時打の直後に代走で出た竹内君は「気を抜くと逆転される。『最後までやりきれ』と声をかけ続けた」と充実した表情だった。(堀之内健史)