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 国宝や国の重要文化財(重文)、都道府県の文化財に指定された美術工芸品について、行政機関に盗難被害が届けられた件数が115件(国78件、18都道県計37件)にのぼることが朝日新聞の調べでわかった。そのうち半数余は行方が分からないままだ。未指定の仏像などを狙う窃盗も相次いでいる。信仰の対象や地域の宝とされてきた文化財が次々と失われている。

 朝日新聞は有形文化財のうち美術工芸品(国、都道府県の指定はともに1万件余)に着目し、国と都道府県に取材した。国宝・重文では、仏像の花飾りが持ち去られるなど価値が大きく損なわれていない「一部盗難」が34件あることも判明した。これらの数字が明らかになるのは初めて。

 文化庁によると、盗難に遭った国宝・重文78件のうち国宝は1件だけで、戻ってきた。「所有者の同意を得ていない」として文化財名を公表していない。1950年の文化財保護法の制定前に8件、制定後に70件。平成に入っても相次ぎ、ほぼ年1回ペースの28件に及ぶ。大阪府能勢町の今養寺の仏像は2010年に盗まれ、17年に発見されたが、漆と金箔(きんぱく)がはがれかけ、木像内部にカビが生えており、修復を検討。盗難防止のため別の場所に保管されている。

 都道府県指定は平成以降が27件と約7割を占める。16年12月には、岐阜県美濃市の地蔵堂で、江戸時代の仏師円空が彫った仏像2体の盗難が判明した。16年に1度しか公開されない秘仏で、盗まれた時期すらわかっていない。

 盗難が届けられた計115件のうち58件(重文28件、都道県指定30件)は今も行方がわからない。6件は所在がわかったものの、届け出た側に戻っていない。転売されて所有権を争っている重文の刀剣などだ。長崎県対馬市の観音寺から12年に盗まれた県指定の仏像は韓国で見つかったが、韓国の寺が「倭寇(わこう)に略奪された」と主張。現在は韓国政府が保管している。

 未指定の文化財も狙われている。和歌山県警によると、08~18年に101件の盗難事件が発生し、仏像など計296点が盗まれた。76件は無人だった。滋賀県教育委員会によると、無住の寺社の仏像などを中心に盗難事件が03~17年に66件あった。

 文化財の防犯に詳しい東北大の中谷友樹教授は「高齢化や過疎化で文化財を支える地域や寺社の力が弱まっており、さらに盗難が増える可能性がある。管理を住民任せにせず、国や自治体が積極的にかかわる体制づくりが急務だ」と話す。(富田洸平)

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 後世に継ぐべき文化財の散逸が次々と判明しています。地域では過疎化や高齢化が進み、自治体も余裕がありません。文化財を守るためにどうすればよいのかを考え、随時掲載していきます。