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香取慎吾とゆくパラロード

 2020年東京パラリンピックの開幕まで25日で2年。本社スペシャルナビゲーターの香取慎吾さんは、パラ競技のことをもっと多くの人に知ってもらおうと様々な競技に挑戦し、アスリートと交流を重ねていく。昨秋のボッチャに続き、今回体験するのは陸上。目の見えない妻と耳の聞こえない夫の「陸上夫婦」と触れ合った。

 「初めまして」

 8月、東京・江戸川区陸上競技場で香取さんを迎えたのは高田裕士さん、千明さん夫妻。世界で活躍する陸上選手だ。千明さんは全盲で、裕士さんは耳が聞こえない。夫が妻の目となり、妻は夫の耳となって、人生をともに歩んでいる。

 香取さんは「障害があってもなくてもパートナーってともに支え合うもの。だから、2人もそこまでの苦労はないんじゃないかな」。その言葉を手話で夫に伝えた千明さんは「見えてないけど見えているし、聞こえないけど聞こえている。不便はない」と話す。横で裕士さんも静かにうなずいた。

 出会いは2006年の全国大会。手話を教えて欲しいと千明さんが裕士さんに声をかけたのがきっかけだった。

 「その時は(恋愛の)気持ちがあったんでしょ」と香取さんが聞くと、「ないない。目が見えない人は手で触って耳で聞いて物を想像し、空間を把握する。ボディータッチは目が見えない人にとっては基本なので」と千明さん。それでも、2人は08年に結婚。その年、妊娠が分かった。

 双方の両親からは出産を猛反対されたという。もし子どもに障害があったら、育てていけるのか。裕士さんはたとえ生まれてくる子に障害があっても、自分の両親と同じように、一人の人間として自立できるように育てる覚悟があった。千明さんは「私たちに苦労して欲しくなかったんだと思う」と、両親の思いを受け止める。そんなことを知ってか知らずか、9歳の長男諭樹くんは隣で大あくび。「まあ、僕は元気に生まれたけどね」。無邪気な言葉に3人から笑みがこぼれた。

 2人は諭樹くんのため、自慢のパパ、ママになることを誓う。裕士さんは21年に開催される聴覚障害者の国際スポーツ大会「デフリンピック」の400メートル障害で、千明さんはその前年の東京パラリンピックの100メートル、走り幅跳びでともにメダルを狙う。

 高田一家にはまだ世界大会での金メダルがない。諭樹くんはパパ、ママの金メダルを待ち望んでいる。「現状で満足してはいけないというモチベーションになっている」と裕士さんが言えば、香取さんは「諭樹くんの願い、思いが一番素直なのかも。1番をとってって、もっと大きな声で言っていいんだよ」。

 夫と、息子と、伴走者と「四人五脚」で金メダルを目指す千明さんに、香取さんは別れ際、エールを送った。「2020年、観客席にいる僕に『やったー』って言わせて下さい」

「半端ない」

 高田夫妻と話をしながら香取さんはふと思った。「目が見えないのにどうやってまっすぐ走るの?」

 マラソンや短距離種目など、選手の「目」となって伴走するのが「ガイドランナー」だ。選手とひもを握り合い、声をかけながらゴールに導くのが役目だ。手をつないだり、先にゴールしたりしたら失格だ。「選手を支える側にもなりたい」と語っていた香取さん。伴走に挑戦だ。

 でも、どこか不安げ。千明さんはコツを伝えた。身長183センチの香取さんと160センチの千明さんでは歩幅が違う。「でも腕と足は連動しているので腕の振りが合えば足も合う。腕を頑張りましょう」

 千明さんは「絆」とよぶひもを指にかけ、香取さんも指をかけた。「位置について。よーい、どん」

 2人の動きはぎこちない。「待って、待って」と香取さん。約15メートル走ったところで2人は足を止めた。

 「ちょっと、私についてきてどうするんですか」

 苦笑いの千明さんに香取さんは、「半端ない。考えることが多すぎて……」。

 2回目。香取さんはスピードを出して千明さんをうまくリード。まるで鏡に映したかのように腕、足の動きはシンクロした。「上手。香取さんはダンスをやっているから、人の動き、リズムに合わせるのがうまいのかも」。千明さんから褒められ、気をよくした香取さん。続いて、「コーラー」にも挑戦した。

 走り幅跳びでは助走方向や踏み切り位置などを正確に把握することが重要で、声や手拍子で選手に伝えるのがコーラーの役目だ。

 香取さんは助走路に立つ千明さんの後ろから、両足や腰の向きをチェック。砂場方向にまっすぐ走らせるためだ。千明さんはこの日、助走距離を通常の約半分の7メートルにした。「コーラーとの信頼関係がなければ全速力で走り思い切っては跳べない」という。踏み切り板の近くに移動し、砂場方向を声で知らせる香取さん。でも、その自信なさそうな声に千明さんは踏み切り前に助走を緩めた。「だって、そんな不安げな声で言われたら『大丈夫?』って思っちゃうよ」

 千明さんは続いて、今度はきっちりと5歩で踏み切り、砂場に着地した。声を張り上げ、走っていないのに自分も走っている感じになったとぐったりした様子の香取さん。「選手を下支えする人も大変。その存在も知ってもらえたら」