[PR]

 せきやくしゃみをした時に、無意識に尿が漏れてしまった経験はないでしょうか。こうした女性に多い尿トラブルなどを、姿勢と呼吸法で予防しよう、という考え方があり、日本でも少しずつ広がってきているようです。フランス発祥のガスケアプローチという理論について、取材してみました。

 せきやくしゃみをして、おなかの中の圧力(腹圧)が上がったときにおこる尿もれは、腹圧性尿失禁と呼ばれる。出産や加齢にともなって、骨盤の底の部分にある筋肉(骨盤底筋群)がダメージを受けたり、ゆるんだりすることなどが原因と考えられている。

 症状がひどく、生活に支障が出てくると、治療の対象になる。治療は泌尿器科などで行われる。診療ガイドラインによれば、まずは、肛門(こうもん)や尿道、膣(ちつ)をぎゅっとしめるようにして骨盤底の筋肉を鍛える体操(骨盤底筋体操)が指導され、それでも良くならない場合は手術も検討される。

 これに対して、ガスケアプローチは、尿もれなどのトラブルが起こる前に、いかに予防するかに重点を置く考え方だ。骨盤底を「おなかの空間を囲む壁の一つ」と考えて、その壁にもたれかかるのではなく、できるだけ負荷をかけないようにして、傷めないようにしようと説く。

 どういうことだろう。

 人の体の、臓器が入っているおなかの空間のことを腹腔(ふくくう)という。腹腔は、上を横隔膜、後ろを脊椎(せきつい)、前を腹筋群で囲われていて、その底に骨盤底筋群がある。便秘でいきんだり、激しい腹筋運動をしたり、猫背の姿勢を続けたりすると、腹腔内の圧力(腹圧)が高まって下に向かい、骨盤底に負荷がかかる。

 

写真・図版 

 骨盤底は、ただでさえ常に重力にさからって臓器を下から支えているのに、ここに過度に負荷をかけ続けると、筋肉が疲労してゆるんだり、靱帯(じんたい)がダメージを受けたりするのだという。提唱者のベルナデット・ド・ガスケ医師に聞くと、「普段から腹圧をかけないことが、何よりも大切です」と話す。

 ガスケアプローチでは、このおなかの空間を圧縮しないように、肩のラインと骨盤のラインをできるだけ引き離すイメージで背筋を伸ばす姿勢を指導する。さらに、呼吸ではまず骨盤底の筋肉をキュッとしめてから、息を吐いていく腹式呼吸を指導する。息を吐くことで横隔膜が上がって、内臓も引き上げられ、骨盤底への負荷を減らせるのだという。

 と、ここまで取材をしてみたが、うーん、呼吸の話はけっこう難しい。

 ガスケアプローチでは、骨盤底を傷つけない分娩姿勢なども指導している。予防のための理論なので、尿もれが起きてしまった人を改善することはできないかも知れない……。残念に思っていたところ、「姿勢を正すことである程度症状が改善した」という話も聞こえてきた。

 川崎協同病院婦人科で産後骨盤トラブル外来を担当する藤島淑子医師は、8年ほど前にこの理論に出会い「これだ!」と感じたという。「腹圧性尿失禁はその言葉の通り、腹圧をかけることで起こる尿失禁です。腹圧をかけなければ予防できる。非常に理にかなっていると感じました」。実際に外来で、尿もれや、骨盤から臓器が出てきてしまう臓器脱の患者に姿勢と呼吸法を指導したところ、骨盤底筋体操を併用しなくても、症状が改善するケースもあったという。

 

 尿もれは、妊娠中に経験しても、産後に自然と改善される場合もある。ただ、高齢になって筋力が落ちてきたときに、また症状が現れるケースもあるという。予防は、何歳から初めてもよいそうだ。

 外来でガスケアプローチを取り入れている藤島さんは「背骨を伸ばして、腹圧をかけないことの大切さを、あらゆる女性に知っておいてほしい」と話していた。

 

〈メモ〉 日本ガスケアプローチ協会(東京都渋谷区)は、妊娠中や産後の女性向けに、ガスケアプローチに基づくエクササイズの講習会も開いている。詳しくはHP(http://www.gasquet-japon.com/別ウインドウで開きます)へ。

 

<アピタル:ニュース・フォーカス・その他>

http://www.asahi.com/apital/medicalnews/focus/(鈴木彩子)

鈴木彩子

鈴木彩子(すずき・あやこ) 朝日新聞記者

2003年朝日新聞社入社。高松総局、静岡総局、東京本社科学医療部、名古屋本社報道センターなどをへて、2016年4月からアピタル編集部員。