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【1984年8月21日朝刊スポーツ面】

《第66回全国高校野球選手権大会準決勝》

金足農 (秋田) 100 000 100|2

PL学園(大阪) 000 001 02×|3

 これが底力というものだろうか。「PL危うし」の声が出始めた八回、一発で鮮やかに逆転した。この回一死後、清原が四球、桑田は1-0後の2球目のカーブを思い切りよく引っ張り、左翼ポールを巻く起死回生の本塁打とした。

 水沢が桑田に打たれた球はスローカーブ。おそらく低めに落として、ひっかけさせようとしたのだろうが、運悪く真ん中高めに入った。それを見逃さなかった桑田はさすが。清原がマークされると、桑田が打つ。ここらが二人の強打者を持つPLの強みだろう。

 金足農に惜しまれたのは八回。工藤が二塁手右を破り、バントで二進後、長谷川も右前に放ち一、三塁。鈴木の4球目に重盗を試みたが、PLバッテリーの落ち着いたプレーに、三塁走者が三本間ではさまれアウトになった。この好機をものにしていれば、PLをもっとあわてさせることができたろう。

 それにしても金足農の健闘は見事だった。一回、長谷川の遊撃不規則バウンド安打で先制。同点に追いつかれた七回にも桑田を攻め、原田の投手強襲安打で加点した。幸運に恵まれた面もあったが、桑田の直球、カーブに食いついていった打撃は、気力にあふれていて気持ちがよかった。

 水沢はシュート、カーブを内、外角に丹念に散らす横の揺さぶりを使った。時折まじえるスローカーブも効果的で、巧みな投球術だった。また、四回二死一、二塁の場面で、一塁走者をけん制球でアウトにした頭脳的なプレー、佐藤俊、工藤の二遊間を中心にした守りは、地味ながら堅実だった。雪国のハンディを背負うチームとは思えないたくましさは、東北勢の今後の大きな励みになるだろう。(井上)

 ●金足農・島崎監督 七回のチャンスにあと1点欲しかった。2点差にしておけば逃げ切れたかもしれない。本塁打された水沢の一球は仕方がない。それより同点のきっかけになったエラーが痛い。でも、よく戦ってくれた。

外すはずが真ん中へ…水沢 狙い球をはじき返す…桑田

 その1球はカーブだった。真ん中から外角寄りの高め。桑田のバットが鋭くとらえ、左翼ポールを巻くようにしてスタンドに消えた。土壇場の八回裏の逆転本塁打。たくましさと同時に神がかり的なものさえ感じさせた。

 が、PL各打者と一番身近に接していた捕手長谷川は前半から「いつかは打たれると思い続けていた」そうだ。ボールまで一直線のバットスイング。すさまじいヘッドのスピード。「一番から九番まで切れ目がない。ほかのチームとは別格のすごい打線」と感じていた。

 水沢の投球の組み立てはすべて長谷川任せだった。長谷川は細心の注意と工夫を凝らした。前半は速球を内外角に散らしてカウントをとり、カーブが勝負球。スピードを抜いたカーブが効果的とみて、後半は初球からカーブを投げさせるケースが増えた。「カーブでこのまま強振するPLのタイミングを狂わせるしか手がない」

 八回一死後、清原を四球で歩かせた。桑田を迎えて一層警戒を強めた。1球目のサインは、外角ボールになる直球。カーブを打たせるための捨て球である。その1球がたまたまぎりぎりに入ってストライク。「ついてる」と長谷川は感じた。そこで2球目は外角低めに外れるカーブを要求した。ところが真ん中から外角高めへ。どうやら1球目のストライクが、水沢に欲を起こさせ、力が入って制球を甘くさせてしまったようだ。

 「でも、失投ではない」という水沢。「ふつうの打者ならヒットを打てても、左翼線へは本塁打を飛ばせない。むこうが上だった」と白い歯さえ見せていた。また、長谷川は打たれた瞬間「やっぱりすごい」と悔しさよりも感服してしまったそうだ。

 ところで、八回の攻撃で見逃せないのはPLベンチの適切な指示だ。中村監督は、七回から水沢のカーブが極端にふえたのを見抜いた。各打者にカーブ狙いを命じた。とくに桑田には打席に入る前「カーブがはじめからくる。ストレートを捨てて狙え」と声をかけていた。

 その教え通りに会心のスイングでカーブを引っ張り、本塁打した桑田のバッティングは非凡だった。桑田は「いや、七回に投ゴロをはじいて(記録は強襲安打)勝ち越し点をとられた。それだけになんとか借りを返したい、と思っていた。気力の一打です」と顔をほころばせた。(富永)

※ボールカウントの数字はストライク、ボールの順