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 快進撃を続け、20日の準決勝も制して初の決勝進出を果たした金足農(秋田)。チームカラーの紫に染まったアルプス席や地元の人々も固唾(かたず)をのんで試合の行方を見守り、勝利の瞬間は喜びを爆発させた。チームはこの日も、「お家芸」のバントを駆使して競り勝ち、東北勢初の全国制覇まであと1勝とした。

 「バントは商売道具。グラブと一緒です」。近江(滋賀)との準々決勝で逆転サヨナラの2ランスクイズを決めた9番斎藤璃玖(りく)君(3年)は、チームで一番のバントの「名手」だ。「打撃練習では8がバント、2がバッティング」という。2ランスクイズで二塁から一気に本塁生還した菊地彪吾(ひゅうご)君(同)も「入学してみて『こんなにバント練習するのか』と思った」と話す。

 金足農は日頃のバント練習で、一発での成功を求める「1本バント」を行う。ミスをすると、外野までのダッシュやヘッドスライディングを繰り返すという。主将の佐々木大夢(ひろむ)君(同)は「練習では厳しく。試合ではミスしても『次がある』と切り替えます」。

 金足農のバントは、同校を春夏通算7回甲子園に導いた元監督の嶋崎久美さん(70)がチームを率いていたころからの伝統だ。「1点の重み」を教え、顔の位置やひざの高さを意識したバントを徹底させた。

 バント重視は対戦チームにも広く知られ、かつて地区大会の決勝で、相手が外野手1人を内野に加える「奇策」の守備シフトを敷いてきたが、スクイズで点をもぎ取ったこともあるという。嶋崎さんは「好打者でも打率は3割。バントは失敗か成功の5割」と言い切る。

 嶋崎さんの教え子の一人で、選抜大会への出場経験がある中泉一豊監督(45)も「バントはうちの伝統。強打者がいたとしてもバントさせる」。ただバントは走者が塁に出ることが前提のため、「打たなければバントもできません」。

 今夏の秋田大会では5試合で18犠打を記録。甲子園に来てからもバント練習を欠かさず、準決勝までの4試合で14犠打、スクイズだけで計6点を奪ってきた。

 そして20日、日大三との準決勝。一回表、金足農は先頭が安打で出ると、佐々木君が一塁側へ送りバントを決めた。2死後、適時打で先制点を奪った。五回も無死一塁で送りバント。2死後に5番大友朝陽(あさひ)君(3年)の適時打で2点目をもぎ取った。決勝点のホームを踏んだ佐々木君は「自分たちのスタイルが出せたから競った試合でも勝てた」と充実した表情だった。(神野勇人)