貿易を巡って米中の対立が続いています。米国の貿易赤字を問題視してきたトランプ大統領は、輸入関税の強化など保護主義的な政策を強め、標的となった中国との報復合戦になっています。自由貿易は「よいこと」とずっと言われてきました。一方で「赤字」をいやがるトランプ氏の気持ちも分かるような気もします。この問題は、経済学や政策論からどのように理解すればいいのか。大和総研政策調査部長の鈴木準さんに解説してもらいました。

保護主義が見落としていること

琴寄 米国が8月23日に、中国からの輸入品160億ドル(約1.8兆円)分への高関税措置を発動しました。7月に続く第2弾です。中国による知的財産の侵害が理由ですが、対中貿易赤字も問題視しているようです。まず伺いたいのは、輸入関税を強化すれば、米国は貿易赤字を減らすことはできるのか、という点です。それほど単純ではないような気もするのですが。

鈴木 何が起こるか、順番に考えていきましょう。米国が輸入関税を強化すると、輸入品はその分、割高になりますので、米国の輸入は減少します。輸入は需要や所得の、海外への「漏れ」を意味しています。輸入が減った分、米国内でつくられたモノを米国民が買うことになれば、米国内の生産や米国民の所得が増え、それだけ米国の貿易赤字が減るとともに、米国の景気はよくなることになりますので、「保護主義は自国にとって望ましい政策」と考える米国民も少なくないでしょう。トランプ大統領もそのように考えているのだと思います。

琴寄 米国にとってはいいことばかりの政策に聞こえますね。

鈴木 確かに、そう聞こえるかも知れませんね。でもここまでの議論はとても重要な点を見落としているんです。

琴寄 えっ、何でしょう。

鈴木 いま、米国が輸入関税を強化すると、米国の貿易赤字が減って景気がよくなるとお話ししました。

琴寄 そうですね。

鈴木 ただ、景気がよくなると、お金に対する需要が高まるので、米国内の金利が上昇することになります。米国内の金利が上がれば、高い金利での運用を求めて海外から資本、つまりお金が流入しますが、米国で運用するにはドルが必要です。海外の投資家がドルを欲しがるようになり、海外の通貨を売ってドルを買う動きが強まるので、ドル高が起きます。ドル高になれば、米国の製品は他の国から見ると割高になりますので米国の輸出競争力が低下します。逆に、他の国の製品は米国から見て割安になりますので輸出競争力が高まります。その結果、米国では輸出減と輸入増が起き、先ほど説明した輸入関税強化による輸入減での貿易赤字の減少は打ち消されてしまうのです。

琴寄 なるほど。とすると、輸入関税を強化しても、結局、貿易赤字の大きさはあまり変わらない?

鈴木 そうです。実は、保護主義が自国の生産と自国民の所得を増やすというのは、外国為替レートが変動しない世界、つまり固定相場制の下で成り立つことなのです。現在のように、グローバルな資本市場で外国為替レートが変動している下では、保護主義にそういった効果は期待できない、というのが、基礎的な経済学が教える結論です。輸入関税の強化は、米国内の特定の産業にプラスだったとしても、米国全体としては貿易赤字を減らすことにはならないでしょう。

そもそも「貿易赤字=悪」なのか

琴寄 保護主義で貿易赤字が減らなそうだ、ということは分かったのですが、貿易収支の赤字ってやっぱり減らした方がいい、できるなら黒字の方がいい、ってことなんでしょうか。

鈴木 企業の決算なら赤字続きは大問題ですよね。トランプ大統領は企業経営者出身だからでしょうか、米国全体についてもそう捉えているようですね。でも、一つの国全体の、他の国との収支は、単純に企業と同じようには捉えられません。例えば、日本は1960年代半ば以降、貿易黒字が基調として定着していますが、だからといってこれまでの日本経済はずっとバラ色だったでしょうか。特に90年代以降の日本の貿易黒字は、日本経済の低迷やグローバル化の遅れによる輸入の停滞を映しているように私には思えます。

琴寄 国内需要が低迷して輸入が伸びなかったから黒字になっていると。

鈴木 そうです。一方、貿易赤字が続く米国で、大きな問題が直ちに起きているようには見えません。貿易黒字国の日本と貿易赤字国の米国で90年代以降の経済成長率をみると、日本が年1.0%、米国が年2.5%、人口1人当たりでも日本が年0.9%、米国が年1.5%ですから、「黒字=善、赤字=悪」でないことは明らかでしょう。人々の生活水準という点でも、輸入の拡大によって、国産品と同じかそれ以上の品質の製品が安価に輸入されて国内に浸透することは、国民の豊かさを高めていると考えられます。

琴寄 といっても、輸出が輸入を上回る黒字は、相撲で言えば「勝ち越し」、輸入が輸出を上回る赤字は「負け越し」って感じがしちゃうんですよね。

鈴木 貿易収支とは、一般的には、モノの輸出入の差額のことですが、長期的にみると別の見方もできます。

琴寄 別の見方、ですか。

鈴木 ここからは、貿易収支に、例えばお互いを訪問する観光客の宿泊費などのサービス収支や、相手国への投資から得られた配当金などの収支といった項目を加えた「経常収支」の話になるのですが、話を単純にするために「経常収支=貿易収支」とします。輸出と輸入の差額と捉えると、どうしても「勝ち越し」「負け越し」に見えてしまいます。企業も力士も、競争力が勝れば「勝ち越し」に、劣れば「負け越し」になるという考え方ですね。

琴寄 そうイメージしている人も多いでしょうね。

鈴木 輸出と輸入だけをみるとそうなのですが、実はこれは「氷山の一角」ともいえます。「輸出入は氷山の一角」というイラストを見て下さい。

琴寄 これは何でしょう。

鈴木 日本をイメージしてみましょう。国内ではさまざまな生産活動が行われていますが、日本でつくられたモノのうち、海外からの需要に応じて輸出に向かうのはその一部に過ぎません。一方、その生産活動によって収入を得た国内の人々は、国産品だけでなく輸入品も代金を支払って購入しますが、これも支払い全体の一部にすぎません。輸出や輸入は、生産で得た収入や購入のための支払い全体からみれば「氷山の一角」であることが分かります。

琴寄 なるほど。

鈴木 「氷山」全体が理解できたら、さらに詳しくみていきましょう。「経常収支 三つの見方」という図を見て下さい。①の「輸出と輸入の差額」、これは貿易収支の一般的な定義ですから分かりますよね。②の「収入と支払いの差額」は、先ほどのイラストでいうと「氷山」全体と同じです。人々は国内での販売や海外への輸出で得た収入を元手に、国内で生産・販売されたものを買うか、海外で生産されたものを輸入して買っています。生産は何らかの需要に対応したものであり、誰かの支払いは誰かの収入でもあります。国内で生産されたモノが国内で購入される部分は「生産(販売収入)=支払い」になります。国内販売や海外輸出で得た収入の合計と、国産品の購入と輸入品の購入を合わせた支払いの合計との差額が、経常収支になることが分かると思います。

琴寄 輸出と輸入だけでは、一部を見ているに過ぎないと。

鈴木 さらに角度を変えて見ると、人々は所得を消費と貯蓄に振り向けています。消費とは飲み食いなども含めて使ってしまうことですが、貯蓄された分は金融市場を通じて企業の設備投資や個人の住宅投資に回ります。この国内全体の貯蓄が、国内での投資を上回っている場合は、その差額が海外に対して貸し付けられたり、投資されたりしていることを意味します。海外の人々は、その資金で日本からの輸入の代金を日本に支払えていると考えられますから、③「貯蓄と投資の差額」も①、②と同じ額になります。経常収支を、単なる輸出と輸入の差額ではなく、②や③として見ると、見え方が違ってこないでしょうか。

琴寄 収入のうち消費と貯蓄にどう振り分けるかや、投資をどれだけ実施するかなどは、それぞれの家庭や企業が自らの事情や見通しに従っておのおの決めているはずですよね。輸出入での「勝ち越し」「負け越し」はあまり関係ない気がしますね。

鈴木 経常収支を①だけでみるのは一面的なのです。現在の日本は「カネ余り」と言われるように、②でいうと、国産品にしろ、輸入品にしろ、支払いが少ないということです。また、③で言うと消費が低迷しているため貯蓄が大きく、投資も低迷しているために、国内での貯蓄が投資をだいぶ上回っているということです。これらはいずれも日本の経常収支が黒字だということを述べているのと同じです。一方、世界から多くのモノやサービスを輸入して消費を謳歌(おうか)し、生活水準を高めている米国は経常収支の赤字が大きい、というわけです。

琴寄 経常収支が赤字である米国は、海外から借金することによって消費を増やすことができている、というわけですか。

鈴木 そうです。経常赤字は、その国に資本が流入しているからこそ成立します。誰もおカネを貸してくれなければ経常赤字になりようがありません。米国が経常赤字であるのは、それだけ投資家からみて米国への投資が魅力的である、ともいえるわけです。

琴寄 輸出の競争力だけで決まっていると考えるのは、単純に考えすぎなのですね。

鈴木 経済の構造面から長期的な変化までを考えるなら、経常収支は③「貯蓄と投資の差額」と等しい、という点が重要です。経済の構造面からみれば、米国の経常赤字の原因は、米国の投資が貯蓄を上回っているから、ということになります。米国が経常赤字を減らしたいなら、貯蓄を増やすか投資を減らす必要があります。政策としては増税や歳出削減のような、消費や投資を抑える政策を進めるべきだ、ということになりますが、トランプ大統領が実際に打ち出しているのは減税やインフラ投資ですので、ちょっとちぐはぐな感じです。米国が財政政策で国内需要をさらに強めれば、保護主義とは別の要因でもドル高が進み、経常赤字はさらに拡大するでしょう。

琴寄 97年のアジア通貨危機でも、最近リラが急落したトルコでもそうですが、経常赤字が大きい国は、資本流出に直面するなど苦境に立たされることが多い気がしますが。

鈴木 毎年の経常収支が赤字であること自体が危機を招く主因である、ということは考えにくいと思います。ただ、経常赤字は海外からお金を調達しているということですから、行きすぎた経常赤字が長期間累積し続け、そのままの状態を続けられるかどうかを何かのきっかけで市場から疑われて通貨下落や資本流出を招く、という関係はあり得るでしょう。

分業せず「二刀流」もったいない

琴寄 第2次世界大戦後、米国主導で関税貿易一般協定(GATT)・世界貿易機関(WTO)や国際通貨基金(IMF)を中心に自由貿易体制がつくられました。戦前、各国が保護主義に走り、対立を深めて戦争を招いたことへの反省から自由貿易が重視されてきたと言われますが、これに経済学的な裏付けというのはあるのでしょうか。

鈴木 保護貿易でなく自由貿易が、消費者にとっても生産者にとってもメリットがあるという点は、ミクロ経済学の分野で説明されることが多いのですが、貿易一般のメリットの原理的な説明として、「比較優位」という経済学の考え方があります。身近な例で説明しましょう。琴寄さんはふだん家で料理しますか。

琴寄 まあ、たまにしますが。

鈴木 私もたまにですが、では琴寄さんの方が、料理が上手と仮定します。「オムレツとハンバーグをもっとつくるには」という図を見て下さい。私はオムレツなら8分で1個、ハンバーグなら12分で1個つくれます。

琴寄 私はオムレツが6分で1個、ハンバーグが4分で1個、ですね。どちらも、私がつくった方がはやいですね。

鈴木 ここで新聞記者である琴寄さんは取材で忙しく、料理に充てられる時間が1時間、それに対して私は2時間だとします。2人がそれぞれの時間を半分ずつ、オムレツとハンバーグづくりに充てたとすると、私は60分でオムレツ7.5個、残りの60分でハンバーグ5個です。

琴寄 私は30分ずつですから、オムレツ5個、ハンバーグ7.5個です。

鈴木 2人の合計でオムレツ12.5個、ハンバーグも12.5個ですね。では、私が2時間まるまるオムレツだけをつくりますので、琴寄さんは持ち時間の1時間をすべてハンバーグづくりに充ててみて下さい。

琴寄 鈴木さんはオムレツ15個、私はハンバーグ15個です。あれっ、2人とも時間を増やしていないのに、さっきよりたくさんつくれますね。

鈴木 この例で、琴寄さんがつくるオムレツを1個増やそうとすると、ハンバーグづくりを1.5個(=6分÷4分)あきらめる必要があります。私がつくるオムレツを1個増やす時に、あきらめるハンバーグの数は0.66個(=8分÷12分)です。琴寄さんと比べてオムレツづくりもハンバーグづくりも「苦手」な私ですが、ハンバーグを単位としてみると、少ない犠牲でオムレツをつくれる、つまりオムレツづくりは私の方が「得意」ということなんです。

琴寄 「苦手」なのに「得意」とは複雑ですね。えーと、よく考えながら図を見ないと。

鈴木 この時の「得意」であることを、「比較優位」と呼びます。私はオムレツづくりに「比較優位」があるわけです。だから、オムレツづくりは私に任せて、琴寄さんには最大限ハンバーグをつくってもらうと、全体として生産量が増えるんです。私がつくったオムレツの一部を琴寄さんに譲り、琴寄さんがつくったハンバーグの一部を私に譲れば、お互いにウィンウィンの関係になります。貿易とは、決して富の奪い合いではない、全体として富を増やすことになる、ということが分かるでしょう。

琴寄 逆に鈴木さんが「比較優位」がないハンバーグをつくる数を増やそうとすると、ハンバーグを1個増やすたびにつくれるはずだったオムレツを1.5個(=12分÷8分)失うと。だったら、0.66個(=4分÷6分)しか失わない私がハンバーグを増やした方がいい、ということですかね。

鈴木 そうです。琴寄さんはハンバーグづくりに「比較優位」がある。「比較優位」を別の言い方をすれば、何かをする時に、そのためにあきらめなければならないことが少ない方、ということなのです。気をつけてもらいたいのは、オムレツ、ハンバーグとも1個つくるのにかかる時間を比べればどちらも琴寄さんの方が短い。これを「絶対優位」と言いますが、それにもかからず、私にも「得意」なメニューはある、ということです。

琴寄 それにしても、私なら6分でつくれるオムレツを、8分かかる鈴木さんに任せた方がうまくいくとは不思議な感じです。

鈴木 こうした説明は国同士で考えても同じです。オムレツとハンバーグの例の琴寄さんをA国、私をB国とし、それぞれが調理に充てられる時間を労働者数に置き換えてみるとイメージしやすいでしょう。例えば、A国が工業国で人口が少なめ、B国が農業国で人口が多めであったとして、それぞれが鎖国して苦手なモノまで自力でつくるより、工業国は工業製品、農業国は農作物、と自国が「得意」なモノをつくって貿易で交換した方がお互いにいい。各国の生産力に限りがある以上、国際分業した方が全体として生産を増やせる、というわけです。

琴寄 「比較優位」がない産業も含めて、自国の産業をすべて守ろうと保護主義を強めると、もったいないことになってしまうと。

鈴木 そうです。貿易のメリットを生かさなければ、それだけ雇用や所得を増やす機会を逃してしまうことになります。保護主義は、場合によっては相対的な意味で「他国に勝った」という状況をつくることができるかもしれませんが、貿易した場合と比べて自国民を貧しくする政策になる可能性が高いといえます。

琴寄 一国の経済では「二刀流」より分業して貿易、ということのようですが、ちょっと待って下さい、ひょっとして大リーグ・エンゼルスの大谷翔平選手の「二刀流」も、「比較優位」の考え方ではおすすめできない、ってことになるのかしら?

鈴木 大リーグの大打者といえばベーブ・ルースですが、ヤンキースに移籍する前、レッドソックスでは投手としても活躍していて、移籍後に打者に集中して本塁打を量産した、という話があります。これを比較優位の考え方で分析した論文(“Did Babe Ruth Have a Comparative Advantage as a Pitcher?” The Journal of Economic Education)では、当時のヤンキースの投手陣が充実していたことを前提に考えると、長打率に秀でていたルースの比較優位は打者にあった、としていますね。

琴寄 「エースで4番」という選手は、投手としても打者としても「絶対優位」ですが、大リーグやプロ野球では、先発投手となると毎日試合に出るわけにはいかないですからね。

鈴木 大谷選手についても、比較優位が投手と打者のどちらにあるのかは、エンゼルスの打線や投手陣の状況による、ということでしょう。私は野球観戦が好きで「二刀流」に成功してほしいと思っていますが、もし私がエンゼルスのGMだとしたら、チームの勝利試合数を最大にするためにはどうすればよいか、大谷選手とチームメートの比較優位を検討するかもしれません。

琴寄 大谷選手は、故障もあって今は打者中心ですね。「二刀流」の成功はファンにとっても夢ですが、打者として結果を残してチームに貢献したならば、結果的に比較優位に従っていた、ということかも知れないですね。

「報復合戦」は米国有利、でも…

琴寄 こうしてみてくると、貿易を巡る米中の対立はやっぱり、双方にとってメリットがないように思えるのですが、今後はどうなるのでしょう。

鈴木 米国の高関税措置第2弾までの範囲内であれば、当面、世界経済が深刻に悪化するというほどのインパクトではないだろうとみています。今後を予想するのはなかなか難しいのですが、米国と欧州連合(EU)の間では、7月末のトランプ大統領とのユンケル欧州委員長の会談で関税撤廃に向けた交渉に入ることで合意し、対立の激化はひとまず避けられました。楽観的に考えれば、米中についても協議が進められ、同じように落ち着いていく可能性はあるでしょう。また、米国が輸入関税強化の範囲を広げていくと、身の回りの商品にも影響が及んで生活費が上がっていくでしょう。そうなれば、米国の消費者が不満の声を上げることでトランプ大統領がちょっとまずいなと考える可能性も考えられます。それから先ほど話したように、外国為替相場がドル高になり、米国の輸出産業の競争力低下への心配が強まることで落ち着いていくというシナリオもありうると思いますね。

琴寄 市場から教えられるということですね。

鈴木 はい。ただ、現実問題として留意しておきたいのは、米国ってそれほど輸出依存の経済ではなく、内需中心だということです。いまの米国は景気がよくて失業率も下がっています。それだけ経済に地力があって、貿易戦争に耐えられるというか、いつまでも貿易戦争から撤退しない、撤退しなくても済むという状況もあります。

琴寄 なるほど。

鈴木 関税で報復合戦になると、より多く輸入している方が強いんですね。中国は米国に対して貿易黒字で、中国の米国からの輸入は米国の中国からの輸入よりかなり少ないわけです。関税は輸入にかけるものですから、報復合戦をしているうちに中国は関税をかけられる輸入がなくなってしまう。

琴寄 確かに、輸入していなければ関税をかけようがないですからね。

鈴木 一方、貿易赤字の米国はまだまだ関税を強められると。そうなると中国が報復のために、関税以外の、例えば外資企業に課税するとか、何らかの規制を強化するとか、そういうことを言い始めるとそれこそ泥沼化します。経済に地力がある米国がこのゲームからなかなか降りない、ということになると、世界の貿易が縮小して世界経済の成長率がぐんと落ちてくる。そういう悪いシナリオも考えておく必要はあるでしょう。

琴寄 日本経済にとってはどうでしょうか。米国が輸入車への高関税を発動すれば、トヨタ自動車は1台当たり平均66万円、年間約4600億円の負担増になる見通し、とのことですが。

鈴木 日本というのは自動車、それから自動車部品で非常に裾野の広い産業を持っていますので、日本からの輸入車に米国が関税を強化すると死活的な問題になるだろうと思います。朝日新聞の記事の中で、私の同僚の試算(https://www.dir.co.jp/report/research/economics/outlook/20180817_020263.html別ウインドウで開きます)が紹介されていますが、現在2.5%の関税がかけられている米国向け輸出は乗用車で4.5兆円、自動車部品で1.0兆円あります。これに一律20%の関税がかけられ、さらにカナダやメキシコなど第三国を経由した日本メーカーの対米輸出などまで考慮すれば、関税の引き上げ額でみて1.75兆円もの影響があるとみています。関税25%なら2.23兆円です。

琴寄 影響は大きいですね。

鈴木 保護主義は輸入も輸出も減らすわけですから、それが収束しなければいわゆる「縮小均衡」をもたらし、世界経済全体の停滞を招きかねません。日本は、自由貿易のメリットを享受することで戦後の発展を遂げたモデルともいえる国です。日本だけは関税をかけないでくれ、この分野だけは例外措置にしてくれといった交渉をするのではなく、世界貿易拡大のメリットを強く打ち出し、世界の調和を図る役目が日本には期待されていると思います。安倍晋三首相とトランプ大統領の良好な関係を生かし、世界経済がよい方向に向かうよう日本がリーダーシップを発揮することを期待しています。(構成・琴寄辰男)

     ◇

〈すずき・ひとし〉東京都立大卒。1990年大和総研に入り、経済調査部長、調査提言企画室長などを経て、2017年から政策調査部長。政府の経済財政諮問会議専門委員(経済・財政一体改革推進委員会委員)、明治大学専門職大学院ガバナンス研究科(公共政策大学院)兼任講師なども務めている。

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