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ストレスや運動不足、水分不足で血栓ができるリスクが高まる

連続車中泊は血管がつまるリスクあり 避難所の利用も

エコノミークラス症候群発症は女性が多い トイレ我慢が一因

 大地震などの災害に備え、避難生活を想定しておくことは重要だ。突然、車中泊や避難所などの慣れない環境に身を置くことになった場合、健康を損なうリスクとどう向き合うのか。日ごろの準備や身近な物の工夫で、環境を改善できることを知っておきたい。

写真・図版

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エコノミークラス症候群、防ぐには

 足にできた血栓が動いて肺の血管を詰まらせるエコノミークラス症候群(肺塞栓〈そくせん〉症など)。2004年の中越地震で、プライバシー確保などのため車中泊を続けた避難者に発症が目立ち、リスクが知られるようになった。

 16年の熊本地震では医師が巡回し、予防効果のある弾性ストッキングも配布された。だが県のまとめで、入院が必要な患者が計52人いた。車中泊をしていた人が死亡する事態も起きた。専門家は「何もしなければ数倍の被害者が出ていたと思う」と話す。

 被災者は、発生直後の急性ストレスと、避難生活による慢性ストレスにさらされる。どちらも交感神経を緊張させ、血管の収縮や血圧の上昇をもたらす。運動や水分の不足も加わり、エコノミークラス症候群の原因となる血栓の形成や、心不全、脳梗塞(こうそく)などのリスクを高める。

身近な物でリラックス空間を

 レジャーとしての車中泊情報を発信している雑誌「カーネル」は、熊本地震の後、基礎知識をまとめたマニュアルを発売した。身の回りの品を効果的に使い、少しでも車中泊を快適にする知恵が盛り込んである。

 例えば、古着やバスタオルをポリ袋に入れて車中に置いておくと、車内の段差を埋め、防寒や目隠しにも使えるという。粘着テープや荷造り用のひも、ウェットティッシュなどもいざという時にすぐ使える。

 狭い車内はストレスになる上、姿勢が固まってしまい、血管が詰まるリスクが高まる。交代で避難所に泊まるなど使い分けも有効だ。大橋保之編集長は、「リラックスが第一で、車中泊、避難所どちらかだけにこだわる必要はない。避難の質を向上させる手段の一つととらえてほしい」と話す。

非常用トイレ、1週間分必要

 トイレの環境改善もエコノミークラス症候群や心不全などの対策につながる。だが、トイレの整備には時間がかかる場合が多い。

 東日本大震災後の14年、循環器疾患の予防ガイドラインなどをまとめた下川宏明・東北大教授(循環器内科)も、「エコノミークラス症候群の発症は女性の方が多い。トイレに行きたがらず水分をとらないのが一因だ」と指摘する。

 NPO法人日本トイレ研究所などの調査によると、東日本大震災発生後に、被災者がトイレに行きたくなった時間は、地震発生3時間以内が31%、4~6時間が36%だった。阪神大震災でも55%の人が3時間以内と回答している。

 しかし、東日本大震災の被災自治体で、仮設トイレが行き渡るのに要した日数は3日以内が34%、8日以上が49%。被災で下水が止まった既存のトイレはすぐにあふれてしまう。トイレ研究所の加藤篤代表理事は「汚い、暗い、怖いトイレが嫌になり、行かなくなってしまう」と説明する。

 阪神大震災以来、後回しになりがちだったトイレの課題に取り組むため、内閣府は16年に「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」を策定。災害直後は約50人に1基、長期的には約20人に1基を設置の目安に定め、市町村にトイレの管理計画をつくるよう求めている。

 トイレ研究所の加藤さんは「家庭でも防災トイレ計画をつくってほしい」と話す。1日に行くトイレの回数を把握し、1週間分の携帯型や非常用のトイレを備えておけば、当面はしのげる。段ボールで簡易トイレも作れるが、加藤さんは「これは他に何もない時の最終手段。基本は災害用品のストックが大事です」と話す。

自宅へ戻る判断は 家屋の危険度判定、目安に

 自宅に戻りたくても戻れない。そんな状況が、熊本地震で車中泊が目立った背景として指摘されている。家屋が倒壊を免れても、部屋中に家財は散乱し、電気、ガス、水道などのインフラも断たれる。余震も繰り返し起こる。

 大きな地震に余震はつきものだ。規模は一回り小さいことが多く、時間とともに減っていく。ただ、熊本地震では4月14日の「前震」から28時間後に、より規模の大きな「本震」が起き、不安を増幅させた。通常の余震でも、震源が近づけば最初の地震より揺れが大きくなることもある。

 「余震」という言葉を使うと、より大きな地震は起きない印象を与えかねない――。そんな議論の末、気象庁は2016年8月、地震後の注意の呼びかけ方を改めた。

 続けて大きな地震が起こるのは、最初の地震から1週間程度の間の場合が多い。特に2~3日程度の間に目立つという。こうした事例をもとに、「余震」を使わず同程度の地震への注意を呼びかけることにした。周辺の活断層や過去の続発例にも触れる。16年10月の鳥取県中部の地震でも、この方式で「1週間程度、震度6弱程度の地震に注意」と呼びかけた。

 自宅に戻れるかどうかを判断する目安の一つが、自治体による「応急危険度判定」だ。判定士が被災地を回って建物の傾きや柱や壁の状態を調べ、赤黄緑の紙を貼っていく。赤は「危険」、黄は「要注意」、それ以外は緑の「調査済」で、理由も記される。

 あくまでも二次災害を防ぐのが目的で、公的支援に必要な罹災(りさい)証明のための調査とは別だ。建物自体に問題がなくても、瓦が落ちるおそれや、隣の建物が倒れるおそれがある場合も「赤」になる。

 「危険や要注意と判定された場合の立ち入りや修復は専門家とよく相談してほしい」と日本建築防災協会の内田仁事務局長は話す。

 熊本地震でも、建物の被害は1981年以前の旧耐震基準のものに目立った。「前震」による避難がなければ、「本震」の人的被害はもっと大きかった可能性も指摘される。被害を防ぎ、地震後に安心して過ごせるようにするためにも、耐震補強や家具の固定、備蓄などの備えは大切だ。

(2016年10月31日朝刊の記事を再構成)

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