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【アピタル+】患者を生きる・スポーツ「ジストニア」

 今回の連載では、プレー中に急に体が思い通りに動かなくなる「ジストニア」という病気で苦しんだ元卓球選手の取材をしました。スポーツ選手とジストニアについて研究を進める大阪大学の中田研教授(57)と望月秀樹教授(58)に、病気についてさらに詳しく聞きました。

――研究を始めたきっかけを教えて下さい。

 中田:私はスポーツ医学が専門です。大阪大では2015年、スポーツ庁の委託で「スポーツ研究イノベーション拠点形成プロジェクト」を始めました。スポーツに関する様々な研究テーマの一つで、スポーツ選手が急に思い通りに動けなくなる「イップス」を調べ始めました。すると、ジストニアという病気に関係があることがわかり、脳の専門家の望月教授にも加わっていただきました。

――イップスとは何ですか。

 望月:ゴルフでパターが決められない、アーチェリーで的にあてられないなど、様々なスポーツで起きます。それまで自然に繰り返しできていたプレーが急にできなくなってしまう運動の障害で、以前は緊張で動けなくなるように精神的な問題が原因と考えられていました。ただ、緊張と関係なくトップレベルのプロ選手でも突然起きるイップスがあり、現在はイップスの少なくとも一部はジストニアが原因と考えられています。運動にかかわる脳の回路が誤作動を起こしてしまう病気です。

――何が原因なのでしょうか。

 望月:ジストニアには全身や体の一部で起きるもの、遺伝が原因と考えられるものなど、様々なタイプがありますが、原因はまだはっきり解明されていません。よく知られているものに「書痙(しょけい)」があります。字を書く書記などの人の手が勝手に曲がってしまう症状です。ピアニストや歌手などの音楽家でも指が動かなくなったり声が出にくくなったりすることがあります。スポーツ選手や音楽家など、とくに長年、特定の細かい動作を繰り返す人で起きる場合「動作特異性ジストニア」と呼んでいます。18世紀から報告がありますが、これまであまり解明が進んでいませんでした。ただ、現在ではプロのスポーツ選手とアマチュア選手の脳の活動を調べると、同じ動作をしたときに脳内の違う部分が活動することがわかっています。なるべく素早く正確に筋肉を動かそうとするときに、運動をつかさどる脳の一部が、何らかの誤作動を起こしてしまうのではないかと考えられています。

――国内のスポーツ選手や音楽家には、どのくらい患者がいるのでしょうか。

 中田:プロのスポーツ選手も病気のことは公表したがらないため、どのくらいの患者がいるのかはわかっていません。ただ、これまでゴルファー2600人以上へのアンケートで、体が思い通りに動かなくなるイップスを経験している人は4割ほどいることがわかりました。一部はメンタル、精神的な問題が原因とみられますが、一部はジストニアと関係があると考えられます。

 望月:ある音楽大学で学生568人を調べたところ、ピアノを弾くときに指がうまく動かせなくなるなど、実際にジストニアとみられる学生は6人でした。約1%です。ただ、音楽の世界でも競争相手が多く、弱点になりうる病気を隠そうとするため、実際にはもっと多い可能性もあります。

写真・図版

――スポーツ選手のジストニアの場合、どのような注意点がありますか。

 中田:イップスの少なくとも一部にはジストニアが原因であることがわかってきましたが、まだあまり知られていません。同じ動作が原因ですから、うまくいかないと思ってあせって練習すればするほどかえって逆効果になる場合があり、注意が必要です。休んだり、それまでと違う動き方をしたりすると、体が動かせるようになることもあります。

 望月:治療する場合は、のみ薬に加えて、筋肉の一部をまひさせるボツリヌス注射や神経をブロックする注射のほか、手術で脳を治療する場合もあります。これらはドーピングにならない薬があります。今年6月、日本神経学会が監修したジストニア診療ガイドラインが出たばかりです。悩んだら脳神経内科を受診してください。

患者や家族らでつくる「ジストニア友の会」
ホームページ(http://www.geocities.jp/dystonia2005/)などで病気の情報を発信している。

 ◇ご意見・体験は、氏名と連絡先を明記のうえ、iryo-k@asahi.comメールするへお寄せください。

<アピタル:患者を生きる・スポーツ>

http://www.asahi.com/apital/special/ikiru/

(聞き手・小堀龍之)