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 純資産総額3千億円とされる投資信託会社「さわかみ投信」を一代で築き上げた澤上篤人さん(71)は、5年前から日本各地の文化遺産を舞台に野外オペラを実現させてきた。「長期投資のカリスマ」と呼ばれる投資のプロがいま、なぜオペラに夢中になるのか。

 京都の清水寺や二条城、兵庫の姫路城、奈良の平城宮跡、熊本城……。世界遺産をはじめ、歴史的な文化遺産を借景にした独自の野外オペラを次々と成功させてきた。

 「本格的な長期投資で、どっしりと財産づくりをしたのが第1ステージ。経済的に自立した先の第2ステージは格好良くお金を使うことが大事になる。経済が成熟した日本は、モノではない楽しみ、喜びにお金を使う段階に入った。たとえば芸術やスポーツ、ボランティア、寄付。心のぜいたくにお金を使うモデルを見せたかった」

 もともとクラシック音楽は好きだったが、オペラにはまったく関心がなかった。たまたま、イタリアのボローニャフィルハーモニー管弦楽団芸術監督で指揮者の吉田裕史と縁があったのがきっかけとなった。「世界のどこにもない唯一無二のオペラをやろうと意気投合した」と振り返る。

 今年の舞台として故郷にある名古屋城を選んだ。「名古屋は東京と大阪の文化のはざまとか不毛の地とか言われている。東京に住んでいても気分が良くない。どでかいものを打ち出して名古屋の人たちの気持ちに火をつけたい。だから赤字覚悟で6公演もやる。いつか名古屋にオペラハウスをつくりたい」。演目はプッチーニ作曲の「トスカ」。トスカがサンタンジェロ城の屋上から身を投げる最後の場面が印象的な傑作で、名古屋城を舞台装置に演出する。

 高校生のとき、材木業を営んでいた父親を過労で亡くした。膨大な借金が残った。1個10円のコッペパンと公園の水道水だけで空腹をしのいだこともある。大学を出て日本企業に就職したが、給料では借金を返せないと見切りをつけ、スイスへ渡った。投資会社に入り、本物の富裕層と接した経験がいまにつながっている。

 「日本人はお金の使い方を知らない。まさに我々の世代がそうだが、貧しさゆえに節約が染み込んでいる。欧州の本当のお金持ちは、どこにお金を回したら世の中が良くなるかを考えている。もうける意識ではなく、お金を回すことでリターンが生まれる。お金は自分の手元を離れると減ってしまうという考え方を払拭(ふっしょく)したい」

 生き馬の目を抜くような投資の世界。だが、実態は芸術とさほど変わらないと見ている。

 「自分のペースで世の中にお金を回しながら、人々の生活を支える企業を地道に応援するのが投資。投資に何が大事かを問われれば、美意識や社会正義、人間としての優しさと答える。きれいごとではなく、投資はやればやるほど青臭いものだと分かる。効率や要領を離れたところに価値を見いだす青臭さが、芸術と似ている」(滝沢隆史)

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 さわかみ・あつと 1947年名古屋市生まれ。愛知県立大学を卒業後、ピクテ銀行の日本代表などを経て、99年に日本初の独立系投資信託会社「さわかみ投信」を創業。長期保有型の「さわかみファンド」を運営する。

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〈ジャパン・オペラ・フェスティバル2018 in 名古屋〉 8、9、11、12、14、15の各日、名古屋城天守閣前特設ステージで午後6時開演。トスカやカバラドッシら主要な役はダブルキャスト。吉田裕史指揮、演奏はボローニャフィルハーモニー管弦楽団、合唱はパルマ王立歌劇場合唱団など。日本語字幕付き。2万5千~8千円。さわかみオペラ芸術振興財団(03・6380・9862)。