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助産師・斉藤智孝さん(55)

 滋賀県栗東市の葉山小学校で6月、約100人を前に時折笑いを交えながら語りかけた。「子どもたちに『生まれてきてくれてありがとう』と伝えてください」

 県内で助産師をする傍ら21年間、子どもから大人まで「命の学習」をテーマに講演してきた。昨年は小学校から大学までの115校を巡った。

 京都市出身。幼い頃は体が弱く、けがや病気でよく病院に通った。人の命を助けるために働く看護師に憧れた。転機は高3の夏。3歳上の姉の出産に立ち会った。命がけで産む女性の力強さと、必死に生まれてくる胎児の生命力に感動。助産師になることを決めた。

 高校卒業後、専門学校で看護師の資格を取得。働きながら勉強し、助産師になった。母体に付きっきりになり、出産が近づくと不安で寝不足になる。「このお産が終わったら助産師をやめよう」と思うものの、生まれてくる赤ちゃんに元気をもらい、続けてきた。

 長男が小2の時、母体と胎児のおへそが胎内でつながっていると授業で習ったという。これは間違いで、母体の胎盤と胎児のおへそがつながっているのが正しい。学校に誤りを指摘すると、「医療の専門家の立場から命の誕生について教えて欲しい」と担任教師から頼まれた。「学校で授業ができるなんて楽しそう」と好奇心で飛びついた。

 担任教師らと授業内容を考え、命の学習が始まった。命の誕生、からだの発達、男女交際、人工中絶……。相手の発達年齢に応じて話す内容を工夫した。評判はすぐに他校にも広がり、県内各地から講演依頼が舞い込んだ。

 「母親は命がけで産み、あなたたちも生きたくて生まれてきたんです」。どの講演でも必ず伝えている。「なんでこんな家に生まれてきたんや」「自分なんて生きていても」などと思ってほしくない。生まれた時の話を聞けば自分や家族を肯定でき、再び立ち直ることができると信じている。

 昨年、孫の誕生に立ち会った。孫と向き合う中で、「末代まで平和な社会が続いていくのだろうか」と不安になった。しかし逆に、今後も講演を続けていこうと意を強くした。「これからの社会を担っていく子どもたちと、『あとは任せてや』と言えるすてきな大人が増えてほしいんです」

<アピタル:ニュース・フォーカス・その他>

http://www.asahi.com/apital/medicalnews/focus/(比嘉展玖(ひらく))