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 原子力災害の記憶の継承などを願って福島市の施設に置かれた現代アートに、「防護服姿は風評被害につながる」といった批判が寄せられ、撤去されることになった。放射線をめぐる地元の苦悩が浮き彫りになる一方、メッセージ性のあるパブリックアートのあり方を改めて考えさせる事態になっている。

 JR福島駅にほど近い市の施設のひさしの下に、高さ6・2メートルの子ども像「サン・チャイルド」は立っている。施設は子どものためのもので、図書館やプラネタリウムが入る。

 作品は、現代美術家で京都造形芸術大教授のヤノベケンジさん(52)が、東京電力福島第一原発事故を受けて2011年に手がけたもの。黄色い放射線防護服を着ているものの、ヘルメットは脱いでいる。顔に傷やあざのようなものが見える一方、大きな目を輝かせ、胸のガイガーカウンターは「000」。「事故による放射線の心配のない世界を迎えた未来」を表現したという。像の前では「事故があったことを残してもいい」(76歳男性)、「防護服が必要な環境だったと思われる懸念はわかる」(32歳男性)といった声が聞かれた。設置した福島市の木幡浩市長は「未来に向かう市のスタンスと合致する作品だと思った」と話す。

 しかし、8月3日の公開後、防護服姿が生む風評被害を心配する声や、自然界でもカウンターの値は0にはならないといった指摘が市に寄せられ、ソーシャルメディアでも続いた。市が施設で自由記述式のアンケートをすると、撤去・移設を求める声が約7割に。一方、「可愛い」「芸術作品として見るべきだ」といった賛成意見もあった。

 市長は賛否が分かれる作品を「復興の象徴」として置き続けるのは困難と判断。8月28日に撤去を表明した。ヤノベさんも苦しむ人がいるならと同意し、朝日新聞の取材には「敵対のためではなく、もっと大きな人類共通の課題を克服する作品になるよう目指していた。撤去を早々に判断したのも、対立や分断が広がることを憂慮したため」と回答した。

 福島県在住のライター林智裕さん(39)は、反発を生んだ背景に、放射性物質による被害を誇張する言説に苦しんできた福島の人々の怒りがあると指摘。福島市で子育てをしながら放射線量を測り、知識を普及する活動をしてきた佐原真紀さん(46)は、「賛成、反対どちらの気持ちも分かる」と話し、こう続けた。「放射能をめぐる分断に、この7年間みんな疲れています」

 今回の問題は、公共空間に置かれるアートについても考えさせることになった。

 一般にパブリックアートは、街の美観や日常的な芸術体験につながったり、共同体の核になったりといった意義が指摘される。だが、池田ともゆき・武蔵野美術大教授は、「公共の場所に突然現れる巨大なモニュメントは、見る人の感覚によって暴力に映る」と指摘。渡辺晃一・福島大教授は「アートは社会的問題を提起するので、環境のデザインとは異なる」と話す。

 サン・チャイルドは、再生可能エネルギーの推進を支援する団体から市が寄贈を受け、7月初旬に設置を発表した。ヤノベさんは「合意形成の期間があまりに短すぎたのが最大の問題」。木幡市長も「いきなり恒久展示ではなく、展示してみて市民の反応を探るのがよかったのかもしれない」と話す。

 同じ作品は12年、福島空港のロビーに展示された際は好評で、評価は展示の場所や時期によっても変わってくる。ヤノベさんは「(放射線の恐怖感や風評被害といった)嫌な記憶だけを思い出す方がいることの現状を、もっと市民の皆様と意見交換し調査しておくべきでした」と述べた。

 また今回、著名人が意見を投稿するなどしてインターネット上で賛否が膨らんでいった。建築の専門家で公共空間に詳しい五十嵐太郎・東北大教授は「ソーシャルメディアでは、極端な意見が交わされやすく、議論はなかなか難しい」。ヤノベさんが「ネットもまた公共空間の一部。受け止めていくしかない」と述べるように、現代のパブリックアートは現実とネット上の二つの空間に置かれているといえる。(丸山ひかり、森本未紀、大西若人

今までも様々な場所で展示されてきた「サン・チャイルド」。作者のヤノベケンジさんに作品に込めた思いを聞きました。後半に続きます。

■作者ヤノベケンジさんが込めた…

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