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 西日本豪雨で大きな被害が出た倉敷市真備町に、「本日臨時休業」の看板を掲げながら店内で作業を続ける、まちの自転車屋さんがある。店主は被災した自宅で寝起きし、「被災者の足」を懸命に守っている。

 倉敷市真備町有井の自転車・バイク販売店「池野サイクル」に日曜の昼下がり、電話がかかった。店主の池野一馬さん(77)は、その要望に合う自転車を用意し、長男に届けるよう頼んだ。「旧知の地元の方に頼み込まれると断れない。田舎だから、いつ何かで世話になるかわからないし」

 「臨時休業」としているのは、自身の店や自宅が被災しただけでなく、修理に使う膨大な部品を流されたからだ。「五十数年かけて蓄積してきた部品をすべて失った。お客さんが店に来ても、合う部品がなくて修理してあげられないと申し訳ない」と池野さん。

 それでも被災5日後から仕事を始めた。通学用自転車を流された高校生に自転車を贈ろうとしたNPO法人「カタリバ」(本部・東京)に協力を求められたのがきっかけだ。これまでNPOが贈った約20台の大半を手配し、町内外の避難所などに散らばる生徒を1人ずつ訪ねて届けた。

 市災害ボランティアセンターに自転車メーカーが貸与する自転車20台の維持も引き受ける。町内で自転車を扱っていたホームセンターは、閉鎖中か仮営業で、部品も買えない状態。店内で作業している池野さんを頼って来る人は絶えない。「高齢者には、歩いて坂を上り下りして配給所に食事を取りに行くのも大変」。池野さんも被災しただけに、その気持ちがわかる。

 7月7日朝、池野さんは隣の集落が泥水につかっているのを見た。午後には南側から水が迫った。近所のブロック塀が水で見えなくなり、長男に促されて車で避難。薗(その)小学校、真備クリーンセンターの避難所に向かったが、人も車も満杯で入れなかった。企業の駐車場に入れてもらい、車内で2晩を過ごしたという。

 水が引いた家に帰ると、どの部屋も物が散乱して手をつけられない状態。水は高さ1・5メートルに達したという。店にあった商品の自転車約100台、バイク約40台は全部泥まみれ。自転車の大半を廃棄し、倉庫に入れたバイクの修理はこれからだ。「業務用の車や工具は保険金が出るが、商品の自転車やバイクは出ない。洗えば使えるものを中古で売るしかない」。池野さんもあきらめ顔だ。

 豪雨から2カ月が過ぎたが、夜、明かりがつく家は周囲にほとんどない。「多くは高齢者で、避難生活に疲れ切っている。2、3時間も作業すると、避難先へ帰って行く」。そう言う池野さんの自宅も、ごみをやっと運び出したばかり。被災者を支える責任感で浸水を免れた一間にとどまり、今できることを続ける。(岡本洋太郎)