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 産婦人科を舞台にしたドラマ「透明なゆりかご」(NHK、金曜夜10時)に、30~40代の女性を中心に支持が集まっている。命が生まれる現場の喜びだけでなく、実際に起きているシビアな現実も正面から描いた意欲作。「涙が止まらない」「現実を知ってもらえるドラマ」などの声が上がり、NHKも「予想以上の反響」という。

 1990年代の町の小さな産婦人科医院を舞台に、アルバイトの看護助手で、高校の准看護学科に通う17歳の青田アオイ(清原果耶)の目を通してお産の現場を描く。人工中絶や出産時の母親の死亡、新生児の置き去りなど「影」の部分に多く焦点を当てるのが特徴だ。

 第1話に、人工中絶で母体から出された胎児を、アオイが透明で小さな専用の小瓶に入れる場面がある。その小瓶を窓辺にかかげ、アオイは胎児に外の景色を見せる。生まれてこられなかった命を表現したシーンだ。この世界観を「透明なゆりかご」という言葉が象徴する。

 第4話では、異常がなかった妊婦が出産直後に出血多量で亡くなる。残された夫子が、絶望と希望が複雑に織りなす日常をどう生きるか、丁寧に描いた。

 視聴率もこの放送枠としては好調で、毎回ほぼ5%超。番組のホームページには、作品を正面から受け止めた視聴者からのメッセージが並ぶ。「寝転んで見られる内容ではなく、跳び起き正座した」、「出産は命がけの作業。安易に恐怖心を植え付けるのは良くないが、危険を伴うことを周知されるべき」。「中絶、流産、出産、全て経験しました」と自身のつらい過去を吐露する人も多い。

 ほぼ毎回、主人公の想像なのか現実なのかあいまいな場面があるのも特徴だ。制作したNHKエンタープライズの須崎岳プロデューサーは「重いテーマのなかで光や希望を描きたかった。視聴者に一緒に考えてもらうための仕掛け」だという。

 例えば第2話。親に黙って一人で出産し、病院の前に子どもを置き去りにした少女は、赤ちゃんを「捨てた」「要らない」と言い張る。身勝手さに憤ったアオイは、怒り心頭で自転車に乗って少女の家に向かう。

 思いのほか遠く険しい坂道を息を切らせながら走るうち、アオイは少女が産後すぐの体で赤ちゃんを乗せ、この道を病院までやってきたことに思いをはせる。「少女は赤ちゃんを助けたいという一心だったのだ」とアオイが気づくまでのプロセスをせりふは一つもないまま見せるシーンだ。この場面には、とりわけ「すごい反響があった」と須崎プロデューサーはいう。

 脚本は「劇場版コード・ブルー」などの安達奈緒子。原作は累計販売部数350万部超(電子版含む)の同名漫画で、沖田×華の実体験をもとにした作品だ。安達は漫画を読み、「他の人の手には渡したくない」と快諾したという。

 講談社で原作を担当する編集者の伊藤憲和さんによると、物語は、作者が実際に産婦人科でバイトしていた際の経験が下敷きになったという。映像化の話はいくつもあったが、重いテーマゆえ、なかなか実現にはこぎ着けなかったそうだ。伊藤さんは「作品の空気感をよく理解し、新たな物語性も与えていただいた。幸運なドラマ化だと思っている」と語った。(鈴木友里子

「お産は安全・幸せ」当たり前ではない

 お産の現場で働く人はどうみるのか。産婦人科医の宋美玄さんに聞いた。

     ◇

 お産の光だけではなく影の部分をしっかりと描いたドラマとしては、2015年と17年に放送された「コウノドリ」(TBS系)があります。産婦人科医としてはまさに求めていた作品でしたが、そんなに一般受けはしないだろうと思っていたんです。

 ところが大ヒット。女性視聴者の多くの共感を呼びました。きれいなだけのお産シーンや、美談は求められていないんですね。コウノドリのヒットで産婦人科医療という分野に注目が集まったとも感じていました。「透明なゆりかご」の人気もこうした土壌の延長線上にあると思います。

 ドラマの舞台である1990年代に比べ、現在の医療水準は進化しています。とはいえ、流産も、おなかの子どもに病気が見つかることも、誰にでもあり得ます。ごくわずかですが出産時に母親が亡くなることもあります。「お産は安全で当たり前」「お産は幸せで当たり前」と思われがちですが、そうではないとドラマを通じて知ってもらえることは非常に良いことだと思います。医師としてずっと伝えたいと思っていたことです。

 透明なゆりかごでは中絶や若年妊娠が描かれます。産婦人科医なら直面しますが、多くの妊婦さんにとって身近な話というわけではありません。ドラマを見て「命について考えさせられた」という人が、可哀想な人に涙しながら「私は恵まれているのだから、大切に生きなければ」というだけで終わらないといいなと思っています。その意味では、無痛分娩(ぶんべん)や帝王切開、子どもの病気など、より多くの人にとって身近なテーマが、これから更に出てくることを期待したいです。