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 詩情豊かな風景画を多く手がけ、「国民的風景画」と称された東山魁夷(1908~99)。生誕110年を記念した回顧展が、京都で開かれています。出展作品の中から、東山自身が「(この作品以来)私は風景画家として立つ決意をした」と語っている、「残照」(1947年)という作品を紹介します。

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 この絵を描く直前、東山魁夷は人生のどん底にいた。終戦前後に父、母、弟を相次いで亡くし、自宅を空襲で失った。終戦翌年の第1回日展は、入選にすら至らなかった。

 そんなとき、千葉県の鹿野山に登り、山頂で見た風景をもとにしたのが、この作品だ。縦約1・5メートル、横幅2メートル超の大画面に、奥へと連なる山々が描かれている。夕暮れ時、刻一刻と移り変わる光が山肌の明暗で表現され、絵の前に立つと、実際に山の上から遠くを見渡しているような気持ちになる。

 「透明感のある素直な色づかいに、王道の構図。見る人がスッと入っていけるようなわかりやすさがある」と、京都国立近代美術館の小倉実子(じつこ)・主任研究員は話す。中央の小高い山は安定感を生み、画面の3分の1を占める明るい空が、奥行きと広がりを感じさせる。

 光と影が入り交じる鹿野山の光景を、東山は「私の心の姿をそのまま写し出しているように見えた」と述懐している。第3回日展で自身初の特選をとり、世に認められるきっかけとなった。

 平易な表現の中に叙情性と精神性を込めることで、東山は独自の風景画を確立した。親しみを感じさせる風景に人生のありようを重ねた今作は、その第一歩だったといえる。

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 「生誕110年 東山魁夷展」は京都国立近代美術館(京都市左京区岡崎円勝寺町、075・761・4111)で10月8日まで。月曜休館(祝休日の場合は開館し翌火曜休館)。一般1500円、大学生1100円、高校生600円、中学生以下無料。(松本紗知)