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 最大震度7の地震に伴う北海道の停電で、家庭で療養する症状の重い患者らの生命が脅かされた。災害時に拠点となる病院も普段通りの診療ができないなど、医療現場に大きな影響を及ぼした。命と健康を守るため、どんな備えができるのか。

 震度6弱を観測した札幌市東区。呼吸不全になる恐れがある進行性の難病を抱える上口好子さん(54)は、自宅の介護ベッドの上で、突然の揺れに目をさました。

 普段は家庭用電源で動く酸素濃縮器から、チューブを通じて鼻から酸素を吸入している。だが、停電すれば使えない。とっさの判断で電源が不要な酸素ボンベに切り替えた。

 しばらくして停電した。ボンベは1本300リットル。上口さんの場合、寝ていると1分に2リットル酸素を使い、歩くと消費量が増える。なるべく酸素を消費しないよう、ベッドでじっと、不安な夜を過ごした。

 幸い朝、ボンベの供給や機器の保守・点検をする業者から電話がきた。「ボンベは足りていますか」。現状を説明すると「もう家の前まで来ています」。すぐに追加のボンベを届けてくれた。午後には停電も解消した。

 上口さんが使うボンベの提供元で産業ガス大手エア・ウォーター(大阪市)は、災害時の患者の支援を続けてきた。ただ停電の影響で道内の工場はガスの製造や補充ができず、本州から酸素ボンベ計約400本を送る予定だ。東日本大震災の際、2万本近い酸素ボンベを被災地に送った経験がある帝人ファーマ(東京都)もボンベ約3500本を道内に送る見込みという。

 上口さんは今回の業者の対応に「救われた」という。そのうえでなお不安も感じた。「もし業者や自宅が被災していたら、どうだったのだろう」

 重い腎臓病で人工透析を受ける患者にも影響が出た。人工透析は電気と大量のきれいな水が必要なためだ。日本透析医学会によると、道内の人工透析患者は1万5432人(2016年12月現在)。

 当時164人の透析患者がいたH・N・メディック新さっぽろ(札幌市厚別区)は設備がなくて自家発電ができず、水も断続的にしか出なくなった。頻繁に透析を受ける必要がある患者が、電気が通っていた別の病院で透析を受けられるよう、病院スタッフは調整に奔走した。

 厚生労働省によると、人工透析に影響が出た医療機関は7日正午現在で42施設あった。停電の解消などにより、減りつつある。ただ、日本透析医会の山川智之常務理事は「本来の透析の間隔がずれたり、(1回の透析にかける)時間が短縮されたりした患者がいる。不整脈や心不全を起こしていないか体調を注意深くみていく必要がある」と語る。

 災害時に大けがをした人や、透析患者など命にかかわる人を受け入れる災害拠点病院も地震で停電した。厚労省によると、6日午後3時時点で、道内34施設のすべてが停電。自家発電装置を稼働させて診療を続けた。厚労省は経済産業省を通じて燃料不足の病院に燃料の配送、自家発電装置のない病院には電源車を手配している。

 災害拠点病院の一つ、札幌市手稲区の手稲渓仁会病院(670床)も地震直後から停電した。自家発電装置を起動させて対応した。災害時の事業継続計画(BCP)に基づき、治療の優先度を決めるトリアージを行った。予約していた患者などの受け入れを中止し、緊急性が低い手術も延期。救急患者のほか、ほかの医療施設で透析が受けられなくなった患者百数十人を受け入れた。

 自家発電用に準備していた燃料は36時間分。停電が長引くことを想定し、補給用の燃料を手配したが、到着が遅れたという。6日午後6時に電力の供給が戻り、全て通常通りの診療が行えるようになった。

 同病院の広報担当者は「診察を受けられなかったにもかかわらず、ほとんどの患者は状況を理解して協力的だった。全道停電という深刻な状況で、救急患者や透析の患者の受け入れなど、事前の計画に基づいて災害拠点病院としての役割を果たせた」と話す。

 土砂崩れが起きた厚真町から近い災害拠点病院の苫小牧市立病院(382床)でも直後に停電して非常用電源に切り替えた。もともと予定していた手術は延期。外来患者の受け付けを取りやめ、急患に備える態勢をとった。

 だが来院患者が40人程度にとどまったこともあり、6日午後2時には態勢を解除。外部電源も午後7時ごろには復旧し、7日から外来の受け付けも始めた。桐木賢事務部次長は「一番心配したのは電源だが、大きな混乱はなかった」と語った。

 災害拠点病院は全国に731病院。災害時に多数の患者に対応する能力が求められ、施設の耐震構造のほか、通常時の6割程度の発電容量の自家発電や、受水槽や停電時でも使える井戸による水の確保などが要件となっている。

 ただ、東日本大震災や熊本地震など、大規模災害時は災害拠点病院も被災し、水や食料、薬、スタッフや患者の安全確保などに課題を残した。厚労省は昨年、被災後すぐに診療機能が回復できるように事業継続計画の整備を災害拠点病院の要件に追加。19年3月までの策定を求めている。

日頃の備えが重要

 東京大総合防災情報研究センターの片田敏孝・特任教授は「地震の被災地は局所的なのに、道内全域に影響が長く及んだ。効率性、経済性を重視した巨大システムの脆弱(ぜいじゃく)性が露呈した」と指摘する。停電の後、医療機関は自家発電で対応した。ただ、燃料が足りなくなる懸念も出た。片田さんが注目するのは、再生可能エネルギーなどを活用して、地域で自立して電力を賄う仕組みだ。「単一の電力網に全てをゆだねず、病院などの重要な機能は、地域でも維持できるようにしていく必要がある」と話す。

 家庭では何ができるか。在宅で酸素療法などをしている場合、一般的な水や食料、薬といった備蓄に加えて、停電が続く場合を想定した備えが求められる。

 酸素療法で使う機器は、内部にバッテリーがない場合は停電とともに機械が止まってしまう。このため、バッテリーがあるか事前に確認し、ない場合は電源のいらない酸素ボンベに切り替える。人工呼吸器は、専用バッテリーなど外部電源の用意がすすめられる。

 在宅医療を受ける人向けに厚労省研究班として「大規模災害に対する備え」をまとめた、聖隷三方原病院の森田達也副院長は「どんな備えをし、災害時にどう対応すべきか。機械の担当者や医療スタッフらとふだんから話し合っておくと、いざというときに役に立つ」と話す。