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特派員リポート 石合力(ヨーロッパ総局長)

 英国の飛び地、英領ジブラルタルは、スペイン南部のイベリア半島の南端部分にある。欧州とアフリカ大陸がジブラルタル海峡をはさんで最も接近する場所だ。18世紀初めのスペイン王位をめぐる欧州各国の戦争(スペイン継承戦争、1701~14)の際、英海軍が占領し、その後の条約を経て約300年以上、英国の統治が続く。現在の人口は約3万3千人。広さは東京23区の約100分の1の6・8平方キロしかない。そこには、日本との特別な協力関係で成りたつビジネスがある。

唯一の輸出品

 英領ジブラルタルには自治政府があり、外交や防衛以外の広い自治権が認められている。その政府のトップに当たるのが首席閣僚(チーフミニスター)のファビアン・ピカードさん(46)だ。ジブラルタルで生まれ育ち、英オックスフォード大で法律を学んで、弁護士から政界に転じた。首席閣僚を2011年から務める。ジブラルタル人は英国系のほか、スペイン系、イタリア系など多様だ。彼自身、多くのジブラルタル人と同様にスペイン語と英語を自在に操る。自治政府庁舎に彼を訪ね、英本土とともに欧州連合(EU)からの離脱(ブレグジット)を控える英領ジブラルタルの経済状況を尋ねていたら、意外な答えが返ってきた。

 「ここから輸出しているのは、ただ一品、トヨタなんです。なぜここから、と思うでしょう」

 土地の狭いジブラルタルでは、金融や保険などのサービス部門が産業の中心だ。製造業はほとんどない。そんな中で、ほぼ唯一の輸出品がトヨタ製の四駆なのだという。ランドクルーザーなど日本製の四輪駆動車がここから年間5500台以上も出荷されているという。人口約3万3千人の6人にひとりが毎年、ランクルを買う、はずはない。一体どういうことなのだろう。ヒントは、すべての四駆のボディーが白塗りということだ。

 「ここで装甲板などを付けて、国連機関や援助機関、NGO(非政府組織)などが使うために、アフリカなどに送られているんです」

 中東で特派員をしていた際、内戦下のシリアなどで国連の停戦監視団に同行したことがある。白いボディーに大きく「UN」と書いた彼らの車の後について一緒に動けば、武装勢力などから撃たれる可能性は少しは減る(かもしれない)。そんなありがたみのある車が、実はここから出荷されていたというわけだ。

 「かつて、アフガニスタンのカルザイ前大統領が命拾いしたトヨタも、ジブラルタルから送られたものですよ」

 ピカードさんは自慢げにそう語った。

ゲンチ、ゲンブツ!

 日本からはるかに離れた英領ジブラルタルとメイド・イン・ジャパンの四駆とのユニークな協力関係。ピカードさんとのインタビューを終えた翌日、その工場に向かうことにした。

 ジブラルタルには、ザ・ロック…

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