(葦)「ミンボーの女」のひとこと 小滝ちひろ

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 9月6日付夕刊の「古都ものがたり」に故伊丹十三さん(1933~97)のことを書くため、夫人の宮本信子さん(73)に会った。

 宮本さんは年に数回、松山市の伊丹十三記念館で受付に立つという。「来館する人たちから、『今伊丹さんがいたらどんな映画を作るんだろう』と言われます。きっといい作品を撮ったでしょうね、(風刺を)ピリッと利かせて。また狙われるかもしれないけれど」。そこで、にこやかだった顔がさっと険しくなった。そして、言葉をかみしめるようにつぶやく。「映画はそういうリスクもあるから……そうだわ……そうですね」

 伊丹さんは1992年5月、自宅前で暴力団員に襲われて重傷を負った。民事介入暴力を題材にした映画「ミンボーの女」を公開した直後のこと。自宅に逃げ込んだ伊丹さんに代わって通報したのが、主演女優の宮本さんだった。

 その時のことが思い出されたのだろうか。一瞬の重苦しい変化に、こちらが次の言葉を失った。そして思う。伊丹映画になりそうなテーマも、危うい空気も増してはいないだろうか、と。

(編集委員)

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