【動画】放鳥が始まってから10年。新潟県佐渡島に生息するトキ=角野貴之撮影
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 国の特別天然記念物トキの放鳥が新潟県佐渡島で始まり、25日で10年が過ぎた。国内の野生下には佐渡を中心に、推定353羽が生息する。「いつか全国の空に」。保護に励む人たちはそう願う。

 国内最後の5羽を捕らえたのは1981年。繁殖を試みるもうまくいかず、2007年までに中国から来た別の5羽で成功した。人工繁殖と放鳥を重ね、12年から野生下でもひなが生まれている。環境省は今年6月、「220羽のトキが自然界で1年以上定着」という目標を2年前倒しで達成、と発表した。島民総出で保護に励んだ成果だった。

 農家は「生きものを育む農法」と銘打ち、減農薬、減化学肥料に取り組む。田んぼに「江」という深みを作り、年中、えさになる昆虫や魚が生きられるようにする。地元の子どもは「生きもの調査」に出かけ、トキの生態などを学ぶ。

 島民はトキを見たら専用電話へ連絡する。その情報で、住民有志、新潟大学、環境省のチームが観察に行く。共存のルールもある。巣に近づかない、観察は車の中から……。島民はトキを思いつつ距離を保つ。

 取り組みは世界からの評価につながった。島は国連食糧農業機関から「世界農業遺産」に認定されている。トキを通じ、生態系を壊さず農業をする体制をつくったからだ。

 環境省の若松徹首席自然保護官は保護の意義を「目指すのは自然と人との共生」と話す。トキが空を舞うような共生社会は日本中に広まるだろうか。数が増え生息域が拡大する未来をどう迎えるのか。問われるときがやって来る。(写真・文 角野貴之)