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 台風や豪雨、地震など大規模災害が相次いでいる。そのたびに課題として浮かぶのが、医療機関の「備え」だ。患者や被災者の命を守るため、防水や耐震、飲食料や薬・燃料の備蓄は十分か。被災時に業務を継続するための取り組みが進められている。

 「今日は透析できません。連絡するので携帯の充電を温存しておいて下さい」。札幌市厚別区の透析医療施設「H・N・メディック(新さっぽろ)」の遠藤陶子内科部長(42)や看護師ら約40人は手分けして、6日朝から7日夕にかけ、人工透析を使う患者164人に電話で伝えた。

 6日未明に北海道を襲った最大震度7の地震で、道内のほぼ全域が停電、「ブラックアウト」した。透析には電気や水が欠かせず、医師たちは移送先の確保に追われた。H・N・メディックでは自家発電機がなく、休日だった職員も駆けつけ、電話で透析患者の安否を確認したり、移送先が決まるまで自宅待機をお願いしたりした。電話はつながりにくく、自宅を訪れ、直接伝えた患者もいた。

 中には3日間透析できなければ心停止になる恐れがある人もいる。7日朝までに停電が解消されなければ、受け入れ先を確保することを決めた。

 事態は変わらず、7日朝から病院を探し始めた。通信環境は悪く、何度もかけ直した。「患者さんに何かあったら」と気はせいたが、「1人なら大丈夫」「10人いいですよ」。少しずつ受け入れ先が見つかっていき、夕方までに計16施設、札幌市と江別市に移送先を確保した。164人はこの日から8日にかけ、H・N・メディックの送迎車4台などで、各医療施設に身を寄せることができた。(青木美希)

 北海道地震で、道内では一時376カ所の病院が停電し、82カ所で水も使えなくなった。災害拠点病院は34カ所全てが停電し、自家発電機で対応した。停電が完全に解消されるまで3日間かかった。

 医療現場は対応に追われた。札幌市内の病院では人工呼吸器が停電で使えなくなり、入院していた0歳児が一時重症となったが、別の病院に移り、手当てを受けることができた。人工透析ができなくなった医療機関も多く、透析患者は別の病院に移ったりした。

 燃料の確保も大きな課題となった。約400人が入院する札幌市内の病院は非常用発電機を作動させたが、燃料の備蓄は8時間分。人工呼吸器を使う患者もおり、病院幹部は「備蓄量が十分だったかなど課題を検討したい」と話した。

西日本豪雨、ヘリで他の病院へ

 7月の西日本豪雨で広範囲に浸水し、51人が死亡した岡山県倉敷市真備(まび)町地区。地域医療を担う民間の「まび記念病院」(80床)も1階が水没し、30時間近くにわたり孤立した。

 「災害に備えたマニュアルや、(災害時に医療を継続するための)業務継続計画(BCP)がなく、お手上げだった」。村松友義院長(60)は振り返る。過去の水害では「水位は膝(ひざ)くらい」と聞き、心配していなかった。

 だが、豪雨は容赦なかった。7月7日朝までに小田川と3本の支流が決壊。病院は午前7時ごろから駐車場が冠水し、約2時間後に停電。近隣住民300人近くが避難してきた。入院患者約80人のうち、人工透析を急ぐ患者が9人おり、翌朝にヘリコプターで他の病院に移った。

 院内での診療を一部再開できたのは豪雨から2カ月半後の9月18日。入院の受け付けは12月になる。村松さんは「地域医療の再開の遅れは、復興の遅れにつながる。地域ぐるみでBCPを作り、災害に備えたい」と話した。(千種辰弥)

熊本地震を機に計画策定へ研修会

 熊本市で8月末、病院のBCP策定のための研修会が開かれた。災害時、病院は入院患者のケアをしつつ、被災者や他院の患者の受け入れで業務が増える。46病院から事務職員や医師ら89人が参加し、はまゆう療育園(苓北町)の佐藤克之医師(64)は「備えがないまま災害に見舞われたら相当混乱することがわかった」と話した。

 研修のきっかけは熊本地震だ。県内の2530の医療施設中、1302施設が被災した。一方、県内214病院のBCP策定率は今年7月1日時点で59病院にとどまる。

 地域医療の要だった熊本市民病院は当時、310人の入院患者全員に転院や退院を求める事態に陥った。蔵原正国総務課長(58)は「災害時に患者を受け入れるべき病院から患者を避難させることはあってはならない」と悔やむ。来秋開業予定の新市民病院では、免震構造などの施設の対策とともに、火災なども想定したBCPを策定する方針だ。

BCP、今年度中の策定義務づけ

 災害時に医療機関が機能を維持し、患者や被災者を受け入れることができるか。様々な検討や見直しが進められている。

 東日本大震災の際、岩手、宮城、福島の災害拠点病院は被災し、入院・外来の受け入れ制限など大きな影響が出た。国は災害拠点病院の指定要件を見直し、通常時の約6割を供給できる自家発電機の設置や災害派遣医療チーム(DMAT)の保有などを盛り込んだ。耐震化に関しては15年、災害拠点病院と救命救急センターの耐震化率を89%とする目標を定め、昨年達成している。

 近年、重要視されているのが、被災時に医療を続けるための準備や行動をまとめたBCPだ。国は災害拠点病院に今年度中のBCP策定を義務づけたほか、一般の医療機関についても協力を呼びかけている。

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 〈医療機関とBCP〉 BCPは「Business Continuity Plan」の頭文字で、災害などの緊急時に、企業や自治体が業務を続けたり、中断しても早期に復旧するための事前計画。被害想定、優先すべき業務、人員の配置案などを定めておく。国は医療機関についてもBCPの策定を促している。耐震などハード面のほか、電源や水の確保、燃料や薬を優先的に供給してもらう先のアテをつけることなどがポイントになっている。