[PR]

遠藤乾=国際

△佐藤伸行「ケムニッツ騒乱、AfDを独政治の一極に押し上げ」(会員制サイトJanet、9月20日)

 8月下旬、旧東独ザクセン州の中都市ケムニッツでドイツ人男性がイラク人とシリア人の難民によって殺害された事件をきっかけに起きた騒乱は、著者によればドイツ史の分岐点となった。ドイツのための選択肢(AfD)は「一皮むけ」てドイツ政治の一極の位置を確定し、ドイツ社会への深い浸透力をあらわにした。他方、戦後の反ナチスを土台とした政治文化とその象徴でもあるメルケル首相はともに、「上から目線」のものとして特に旧東独地域で拒絶され、分裂した社会のなかで弱体化した。

△朴裕河「文在寅『慰安婦記念日』私はこう考える」(文芸春秋10月号)

 去る8月は、慰安婦の記念日関連式典が韓国で初めて実施された月でもある。そんなおり、文芸春秋誌は、『帝国の慰安婦』の著者であり、それによって慰安婦の名誉を傷つけたとして韓国で係争中の朴裕河(パクユハ)のインタビュー記事を掲載している。ここで朴は、戦後史、世代、帝国(支配)などの観点から「韓国」十把一絡げの問題設定を相対化している。それによれば、慰安婦の争点化は冷戦終結後の比較的新しい現象であり、それに対するスタンスには世代間の相違がある。また、朴は、戦争に付随する民族的問題と見なされがちな慰安婦問題を、帝国という支配という文脈に位置づけ、階級抑圧や性差別などと連結した問題として提示しなおす。

△星野英一「基地建設反対運動の正義 沖縄における人権侵害を国際社会に訴える」(世界10月号)

 この論考では、沖縄の基地・差別・抑圧問題が国際人権規範の観点から検討され、じっさいにこの問題が国際法過程に連結されていることが分かる。その背景には、沖縄において、平和的な集会の自由、恣意(しい)的に逮捕拘禁されない権利などが侵される一方、東京への異議申し立てが作動しないという事情がある。この問題は、国際人権理事会のさまざまな場で審議され、国際社会に認知されてきている。知事選の結果いかんにかかわらず、国際社会からの具体的な勧告を受けとめ、自らの社会がもつ人権上の問題点として意識することができるのか、基本的な姿勢が問われている。

木村草太=憲法・社会

△樋口英明「原発訴訟と裁判官の責任 3・11後の司法をめぐって」(世界10月号)

 原発特集「安全神話、ふたたび」の中の1本。福井地裁の大飯原発運転差止判決に関わった元裁判官による判決の解説記事。原発の耐震強度の脆弱(ぜいじゃく)な設定や、地震予知についての楽観論の危険が淡々と指摘される。差止判決も、決して科学的根拠のない感情論ではなく、むしろ、淡々と理論的に危険を認定したに過ぎないものであることが分かる。この特集は、その他の記事も読みごたえがあり、原発に関する議論に参加しようとする人は、その立場を問わず一読すべき内容となっている。

△根本和幸「国際テロリズムに対する武力行使」(法学セミナー10月号)

 「今、目の前で生じている国際社会の動きや変化」を踏まえた国際法に関する最新の論点・議論を紹介する特集の中の1本。国連憲章51条など、武力行使を統制する国際法は、基本的に、国家的主体に対する武力行使する場面を想定している。憲法9条も、日本が他の国家に対し武力を行使する場面に適用される規定である。これに対し、近年、他国領域に逃亡したり、根拠地を置いたりするテロリストへの武力行使を認めてよいのかが議論されている。国際法上、明瞭なルールが形成されているとは言い難い問題で、改憲論議の前提として理解しておくべき内容も多く含んでいる。

△深町晋也「連載『家族と刑法――家庭は犯罪の温床か?』第9回 両親が子どもを巡って互いに争うとき その2」(書斎の窓9月号)

 民事法の領域では、離婚後共同親権の導入を巡る議論が展開されているが、この問題は刑事法へも視野を広げておく必要がある。日本の判例では、別居中の妻が養育中の子どもを父親が自動車で強引に連れ去った事例で、未成年者の拐取罪(刑法224条)の成立を認めたものがあり、共同の親権者といえども、別居中の子どもを無理に連れ去った場合には、刑罰の対象になる可能性が高い。これに対し、著者は、一方の親権者が他方の親権者との共同生活の場から子と共に離脱する事案では、どのような場合に犯罪になるかが「極めて不明確」となっていると指摘する。ルールが不明確だと、子どもの福祉や、家庭内でのハラスメントから逃れるための離脱を躊躇(ちゅうちょ)する例が出てくる恐れもあり、基準の明確化が求められる。

高端正幸=財政・経済

△ビーラバドラン・ラマナタンら「温暖化と異常気象が人類を脅かす ダメージ管理から環境浄化への道を」(フォーリン・アフェアーズ・リポート9月号)

 科学は、温暖化が人間の生活を脅かすリスクをより正確に予測できるようになっており、そのことが気候変動をめぐる国際政治を大きく前進させる可能性を生みつつあるという。温暖化原因物質が引き起こす疾患によって年間700万人が犠牲となっており、21世紀末までに54度超の熱波に見舞われる可能性は10~30%、2030年までに食糧価格の上昇は23%と予測されている。もはや温暖化ガスの削減では不十分で、大気中に現存する二酸化炭素を除去する必要があり、さらには禁じ手とされるジオエンジニアリング(地上に到達する太陽光の量を操作する技術)も真剣に検討すべきだと、著者らは主張する。危機感に満ちた論考だ。

△神林龍「『労働力調査』の新指標が示す 日本の労働供給余力はわずか」(週刊エコノミスト9月11日号)

 日本の失業率の定義が狭いため、未活用の労働力がうまく把握されていないという声に応えて、「労働力調査」が改善された。それに基づき、神林は、日本には未活用の労働力が国際的にみて多く存在するという根強い見解に疑問を呈する。いわゆる「103万円の壁」など日本特有の制度的要因を強調することはできないし、在職中だが労働時間を増やしたいという人々が日本の労働供給余力の主力であることは事実だが、それも日英仏で共通することだという。さらに神林は、労働時間を減らしたい人も相当数存在することを踏まえて、労働時間を「増加希望者は増加でき、減少希望者は減少させられない」という非対称な前提を置かないかぎり、増加希望者だけをとらえて労働供給余力を見るわけにはいかないという、真っ当かつ重要な指摘をしている。

△井手英策「驚異の豊かさ…『富山は日本のスウェーデンだ』と言いたくなる理由」(現代ビジネス、9月3日)

 先月刊行された自身の新著のエッセンスを説く論考。同書は「保守が生んだ日本型北欧社会」として富山をとらえる。「家族の原理」をつうじて現実をとらえなおし、保革、左右の不毛な対立を超える具体的な変革のビジョンを示そうとする試みだ。彼は、「人間らしい暮らしをメンバー全員に与えること」を「家族の原理」と定義し、富山とスウェーデンという一見かけ離れたケースにおいて、それぞれの現実的な必要に応じ、異なる形(「コミュニティーの存在を前提としたその内側での連帯」と「ナショナルなレベルでの連帯」)で「家族の原理」が大切にされてきたことを見いだす。いわゆる保守と、いわゆるリベラルの双方に対し、大胆に問いを投げかける議論だ。

■津田大介=メ…

有料会員限定記事こちらは有料会員限定記事です。有料会員になると続きをお読みいただけます。

有料会員限定記事こちらは有料会員限定記事です。有料会員になると続きをお読みいただけます。

有料会員限定記事こちらは有料会員限定記事です。有料会員になると続きをお読みいただけます。

有料会員限定記事こちらは有料会員限定記事です。有料会員になると続きをお読みいただけます。

980円で月300本まで有料記事を読めるお得なシンプルコースのお申し込みはこちら

こんなニュースも