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 消火栓やマンホールのふたに描かれているカラフルな観光名所やゆるキャラ。その色付けは、職人の手仕事によるものでした。

日之出水道機器佐賀工場 標示工程伍長 藤田勝利さん(54)

 丸い消火栓のふたがずらりと並ぶ。黒い鉄製の表面に、ボトルからやわらかい赤い樹脂を注ぐと消防車の絵がすーっと浮かび上がった。まるで手品のようだ。隣、また隣と次々に移動して、同じ作業を繰り返す。その手つきに迷いはない。

 マンホールのふたの生産で国内首位、約6割のシェアを誇る福岡市の日之出水道機器。社内で「標示工程」と呼ばれる、色を塗って仕上げる作業を30年以上務めてきた。

 製品の大部分は主力の佐賀工場から出荷している。同僚7人とともに色をつける。やり直しのきかない一発勝負を、社内一のベテランは正確さを保ったまま同僚の2倍の速さでやってのける。一日に手がけるのは約100枚。これまでに70万枚以上に塗ってきた。

 塗装には強化プラスチックのもとにもなる「エポキシ樹脂」を使う。はちみつのようなやわらかさの樹脂が固まるまで約20分。その間に、ボトルから少しずつしぼり出して、ふたに彫られたデザインの枠内に流し込んでいく。

 これまで製造工程の多くは機械化されてきたが、最後の色塗り作業は人の手が頼り。発注製品のデザインが多岐にわたるからだ。この工場で手がけるのは現在6千種類にも及ぶ。

 樹脂の表面に凹凸ができると、地面の砂がたまって色落ちの原因になる。製品の出荷規定で、樹脂の高さは縁から2ミリ下で水平にそろえなければならず、ミリ単位のワザが求められる。

 どの部分から樹脂を流せば、速く塗れるか。どれくらい傾ければ水平に仕上がるか。「すべて体にしみついている」と胸を張る。

 使う材料や工程など、今では当たり前になった多くのノウハウを生み出してきた。20歳で入社した当時は手探りで、マニュアルもなかった。ちょうどいい固さの樹脂を探して、いくつもの種類を試した。「これだ」と思った樹脂は、価格が高すぎてお蔵入りに。ロボットによる色塗りを試したときは、機械の中で樹脂が固まって壊れた。結局、人の手でやるのが一番となった。

 かつてのデザインは、2色の消防車など簡素なものが多かった。その後、ゆるキャラブームが到来したり、観光名所をかたどった「ご当地マンホール」が出てきたりして、複雑な注文が増えた。いまでは最大10色を使う。難易度は格段に上がったが「多くの人に『きれいだね』と喜ばれるのが一番のやりがいですね」とほほ笑む。

 印象に残るのは「銀河鉄道999(スリーナイン)」の人気キャラクター、メーテルを手がけたこと。まつげ周辺の塗装が特に細かく、竹串とルーペを使って仕上げた。「難しかったけど、これまで何十万枚もやってきたので、普段通り緊張せずにできました」

 2年前には様々な図柄の写真を載せたカードも現れるなど、いまではマンホールや消火栓のふたはちょっとしたブームになっている。昔はふたへの愛着はほとんどなかった。でも、最近は自分の塗った製品を孫にも見せられるのがうれしい。「どこに行っても自分の製品を見ることができる。悪くないなって思います」(高橋尚之)

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 ふじた・かつとし 福岡県の旧吉井町(現うきは市)出身。高校卒業後、土木会社を経て日之出水道機器に入社。ほぼ一貫して塗装作業に携わってきた。今は同じ仕事をする7人のリーダーも務める。

はちみつ容器が「筆」

 樹脂を塗るのに使うボトルは、いわば筆代わり。これまで、ペットボトルやマヨネーズ用など様々なものを試してきたが、最終的にいまのはちみつ容器にたどりついた。「適度なやわらかさで力加減がしやすい。手にも一番しっくりなじむ」のだという。固まった樹脂がすぐはがれるため、手入れをしやすいという利点もある。

細かい所は箸と串で

 細かい部分の塗装には割り箸と竹串が欠かせない。先端に樹脂をつければ、狭い隙間でもお手のものだ。お気に入りの串は100円ショップで購入。同僚には、やきとりやおでんの串を愛用する人もいるという。