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 東京都の下町にある永寿総合病院の廣橋猛さん(41)は「二刀流の緩和ケア医」として知られています。終末期の患者を在宅と病棟の両方で主治医としてみているためです。9月に出版した「素敵なご臨終」(PHP新書)では、3千人の患者をみとった経験から、後悔しない家族のおくり方をまとめました。著書に込めた思いを聞いていくと、「樹木希林さんの亡くなり方は理想的だった」という話になりました。なぜでしょうか。

 ――理想的な最後を過ごすのに必要なことはなんでしょうか。多くの人が知りたがっていると思います。

 まず多くの方に、人はどのようにして亡くなっていくのかを知って欲しいと思います。一概には言えませんが、人の終末期は病気によって大きく四つのタイプに分かれます。①がん②心臓や肺の病気の末期③認知症・老衰④突然死、です=イラスト参照。

 ①のがんでは、患者はぎりぎりまで、元気でいることがわかります。②の心臓や肺の患者は、何度かガクッと機能が低下して悪化していきます。③の認知症は心や体がゆっくりと弱っていき、介護が必要になります。④の突然死は昔から言われる「ピンピンコロリ」という状態です。心筋梗塞(こうそく)や不整脈、脳血管障害などが原因になります。

 ――特にがんの場合、おおよそ亡くなる1、2カ月前に急に状態が悪くなると言われますが。

 トイレに自分で行けないほど歩けなくなったり、食事がちゃんととれなくなったりしたら、予後3週間以内の可能性が高くなりますね。亡くなる最後の数日前は、ほとんど寝ているようになりますが、無理に起こそうとせず、そっと見守ってあげるべきでしょう。過剰な点滴も患者の体に負担になるだけで、おすすめはできません。亡くなる数日から数時間前になると。不規則で浅い呼吸になってきます。このような呼吸の変化を認めたら、いよいよお別れが迫っていると考えた方がよいでしょう。また、口をぱくぱくしてあごを使って呼吸するようになりますが、苦しいからではないということを家族には伝えています。

 ――がんと言えば、がんを公表していた樹木希林さんが先月亡くなり、多くの関心を集めました。

 最後まで仕事に取り組み、家族に見守られて静かに息を引き取ったそうですね。報道などを見る限りですが、全身がんにおかされて、最後のときをどう過ごすか決めておられたように見受けられました。痛みのコントロールなどもうまくできていたのでしょう。

 2015年に俳優の今井雅之さんが大腸がんで亡くなられたのですが、夜も眠らないくらいの痛みを抱えていたけれど、舞台に復帰するという意思を表明されました。

 当時、適切な緩和ケアを受けていなかったのではないかと疑問を持ちました。よく有名人の方ががんで亡くなるときに、壮絶な死に方と報道されることも見受けられますが、適切な緩和ケアができれば、必ず苦しまずに死ぬことができます。

 ――出版された「素敵なご臨終」では、家族ができる緩和ケアについても説明されてますね。

 患者だけでなく、家族が後悔しないように、知っておくべきことをまとめました。「家事をさせてあげた方が痛みを忘れて和らぐことがある」「息苦しいときはうちわであおいであげると良い」などといった、家族ができる具体的な緩和ケアの方法から、死に向かって起こる心や体の医学的な変化などをまとめました。

 ――事前にどのような亡くなり方をしたいか、決めておくことが大切ですね。

 そうです。前もって、自分が重い病気になったらどのような治療を受けたいか、どのような場所で最後を過ごして死んでいきたいか、考え、家族にも話しておくことが重要だと思います。残された遺族は、必ずといってよいほど、本人が満足して最後の時間を過ごせたか、悩みます。「こうしてあげればよかった」などと自責の念にもとらわれがちです。生前にそうした話をしておけば、それをよりどころに、家族は「できることはした」という気持ちになれます。本人だけでなく、家族にとっても大きな意味があるのです。

 私自身も、父親から生前、延命治療を受けたくないという意思を聞いていたので、病気で亡くなるときに、治療方針を迷わずに決めることができました。このことがなければ、ずっと悔いていたかもしれません。父親には本当に感謝しています。

<アピタル:ニュース・フォーカス・その他>

http://www.asahi.com/apital/medicalnews/focus/

(聞き手・服部尚