[PR]

 緑色と青色をシンボルにした2大政党が競い合ってきた台湾政界で、無党派を象徴する「白色」が注目されています。11月の統一地方選を前に、政権を担う民進党も野党の国民党も支持が低迷。台北市長選で再選を目指す無所属の柯文哲(コーウェンチョー)氏(59)の存在感が増しています。かつて白衣をまとった医師出身の柯氏が人気を集める理由とは。(台北=西本秀

 台北市議選に立候補する無所属の林ショウ麗氏(52)の事務所には、柯氏とともに署名した16カ条の政策協定書が掲げられている。

 行政の透明化など柯氏の理念に賛同すれば、柯氏の応援を受けられる。組織を持たない柯氏が「チルドレン」を育てる試みだ。9月末の第1弾の協定締結式には各地の地方選に出る無所属候補ら43人が集まった。

 台湾ではかつて独裁政党だった国民党と、民主化を求めた民進党が政権交代を繰り返してきた。前者のシンボルは青、後者は緑。選挙戦は双方の色の旗があふれる。

 潮目が変わったのが2014年。台北市長に当選した柯氏の登場だ。医師である柯氏は白衣にちなみ、党派色に染まらない意味を込め白をシンボル色にした。

2大政党への不満の受け皿に

 当時、中央政権と台北市政を担っていたのはいずれも国民党。民進党は柯氏を支持して国民党市政の継続を阻止。その勢いで16年総統選に勝利し、蔡英文(ツァイインウェン)政権の誕生を導いた。

 その後も柯氏の人気は衰えない。台北ばかりか、講演に訪れた南部の都市でも数百人が行列待ちをする。20年の次期総統選を想定した世論調査では、現職の蔡氏を上回る支持を集める。

 背景には2大政党への不満がある。立法院(国会)内外で与野党の乱闘やデモが繰り返され、蔡政権は思うように政策を進められない。政権発足時に5割あった民進党支持率は2割台に下落。国民党も2割台で低迷。いずれも支持しない層が5割に迫る。

 柯氏のイベントに参加した劉又センさん(28)は「政権交代で生活が良くなったという実感がわかない」と漏らす。低賃金や地価高騰が課題となる中で、柯氏が進める公共住宅整備や交通政策など、暮らしに直結した施策に期待している。

中台は「一つの家族だ」

 柯氏を象徴するのが、冷え込んだ中台関係での立ち位置。昨夏、台北市がユニバーシアードを開催するにあたり、中国の不参加が危惧された。柯氏は開催前に訪中し、「両岸(中台)は一つの家族」という習近平(シーチンピン)国家主席も使った言葉を引用して交流を呼びかけ、大会を成功させた。

 中台関係は、台湾の独自性を重視する民進党と、中国とのつながりを重視する国民党との間の主要な対立点だ。だが有権者の多くは独立を求めて中国と争うことも、中台統一で社会が変わることも望まない。大事なのは安定だ。

 蔡政権も現状維持を訴えるが、本来独立志向の政党だけに中国側の反応は冷たい。そこで柯氏が存在感を示している。

 民進党からは柯氏が中国寄りに踏み込んだように見え、「白色でなく紅色(共産党)。理念なく色を変えるカメレオンだ」と反発が広がった。民進党は4年前とは方針を変え、台北市長選に候補を立てる。だが柯氏の優位は揺るがない。

 台湾メディアは、柯氏が各地へ選挙応援に出かけて「チルドレン」を育てる動きを、次の総統選に向けた布石とみる。

 中国側も柯氏に注目する。中国中央テレビはニュース番組で特集し、「柯氏が2020年の選挙(総統選)に参戦するかが焦点」と伝えた。

 台北市長選を含む統一地方選は11月24日に投開票される。民進党は苦戦するとみられ、結果次第で蔡総統の求心力が低下する可能性がある。

柯文哲・台北市長インタビュー

 ――人々はなぜ、あなたに注目するのでしょう。

 「政権交代が3回あり、2政党とも政権を担った。結果はどちらも同じ。今まで第3の選択肢がなかったが、現在は(私という)選択肢がある。台湾政治にとっては大きな衝撃だろう」

 ――統一か独立か、の論争をイデオロギー的だと批判していますね。

 「政治の基本は清廉さや実直さ。なのに結論の出ない議論を続け、行政には負債が積み上がっている。論争は見せかけだ。統一派に今すぐ統一するのかと聞くと、『統一しない』と答える。独立を主張する人に聞いても『独立しない』と答える。こんな問題のためにけんかしている」

 ――その結果、何が起きているのでしょうか。

 「空回りだ。『アジア四小竜』の一つと言われた台湾が取り残されてしまった。表面上は経済が成長しても、市民の収入は伸びずにいる」

 ――「両岸(中台)は一つの家族」の発言の意図を「緊張を静めるため」と説明していますが、批判もあります。

 「ほかに良い方法があっただろうか。私は外科医。問題を解決する方法を着実に行い、結果としてユニバーシアードは成功した」

 ――将来の総統選への意欲は。

 「この質問には模範解答を用意している。そもそも医者の私が市長になったことが人生の例外だ。総統選について何も計画はない」

柯文哲(コー・ウェンチョー)氏

1959年生まれ。台湾大学医学部卒。同大病院救急部門の外科医、同大教授を経て2014年に台北市長に初当選。