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 京都大の本庶佑(たすく)特別教授が今年のノーベル医学生理学賞に決まり、研究成果である「免疫療法」への関心が大きく高まりました。一方、この手法や本庶さんの研究をもとに開発された薬「オプジーボ」に対しての誤解も少なくありません。免疫療法に関していま知っておきたいことについて、国立がん研究センターがん対策情報センターの若尾文彦センター長に聞きました。

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 本庶佑先生のノーベル賞受賞が決まって以来、私たちの施設にも「オプジーボで治療を受けたい」という相談の件数が増えています。なかには、手術を受けるのがベストと判断されたのに「手術でなく、オプジーボでがんを治すことができないか」という内容もありました。

 ここには、いくつかの誤解があります。

 まず、オプジーボは手術が受けられるような状態の方は対象になりません。手術ができればそれによってがんが治る可能性があるためです。すでにがんが別の場所に転移していて手術できない状態だとしても、いま標準的とされている抗がん剤がある場合は、まずはそちらを先に使うことになります。また、オプジーボの対象になったとしても、すべての患者さんに効果があるとは限らず、受けた方の2割ほどとされています。

 さらに、「効いた」としても、それが「治る」ことを意味するわけではありません。いま確認されている効果はあくまで生存期間の延長で、がんそのものが治癒したということではありません。効果があるというと「治る」と患者さん側が受けとめがちなのは、マスコミの報道による印象もあるようですが、私たち医療者の情報発信も不十分だったためだと思っています。

 オプジーボは副作用が軽いというイメージもあるようです。たしかに従来の抗がん剤によくみられる吐き気や白血球減少といった副作用は多くありませんが、間質性肺炎や重症筋無力症、1型糖尿病といった、このタイプの薬に特有の副作用が起こり得ます。こうしたケースにきちんと対応できる体制の整った医療機関で受けていただくことが大切です。

 本庶先生の研究がオプジーボという薬の開発につながったことは大きな意義があり、ノーベル賞の受賞が決まったのはすばらしいことです。ただそのことで注目度が一気に高まり、オプジーボと効果が確認されていない従来の免疫療法といっしょくたにされてしまうなど、免疫療法全般に対する過大な期待につながっているように感じます。

 私たちは、国立がん研究センターのがん情報サービスのなかに昨年3月開いたページ

https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/immunotherapy/immu01.html別ウインドウで開きます

で、免疫療法を「効果あり」のものと「広義」のものに分けて記載しました。

 「効果あり」は、オプジーボなど「免疫チェックポイント阻害剤」と呼ばれる薬による治療が中心で、効果が明らかにされた結果、国が承認して保険が適用されたのに加えて、国内の診療ガイドラインでも推奨されています。

 これ以外のほとんどの免疫療法は「広義」に該当し、効果はきちんと確かめられていません。免疫治療をうたう多くの民間クリニックが提供しているのは、自費による広義の免疫療法です。こうした治療を必ずしも否定するものではありませんが、本当に安全で有効であるのか、まずは臨床研究によって厳密に検討することが必要です。それをせずに、患者さんに高額の支払いを求めてこうした治療を提供するのは順序が逆ではないかと思います。また、研究をうたいつつ高額の費用を設定する場合もあるので注意がいります。

 効果が確認されていない広義の免疫療法と、オプジーボを組み合わせて自由診療で提供するクリニックも出てきています。特有の副作用を考えれば、やはり日本臨床腫瘍(しゅよう)学会の薬物療法専門医がいるような施設で受けていただくべきだと思います。「患者さんの状態に合わせて薬の量を調整する」といった広告もみられますが、コストを下げるために薬を減らしているところもあるようですし、薬の血中濃度を一定以上保たなければ治療効果も望めません。

 科学的根拠にもとづく医療を提供するべき「拠点病院」の側にも問題がありました。一部の「がん診療連携拠点病院」で最近まで、「広義の免疫療法」が臨床研究ではない形で行われていました。今年7月に拠点病院の整備指針が改正され、こうした免疫療法を拠点病院では原則として研究以外では行わないことになりました。

 患者さんやご家族には、効果が明らかな免疫療法は限られていること、自由診療で行われている広義の免疫療法には慎重な対応が求められること、効果が認められた免疫療法にもリスクがあることを知っていただきたいと思います。

 なぜ患者さんが自由診療の免疫療法を受けてしまうのか。それまでの拠点病院などでの治療がうまくいかなかっただけでなく、医師から十分な説明がなかったり、話をきちんと聞いてもらえなかったりして、それまでの医療者に不信感などがあったからではないかと思います。その背景には、拠点病院で一人ひとりの患者さんとじっくり向き合うゆとりがないといった医療体制の問題もあります。

 いま自由診療の免疫療法を受けている方が、十分に納得して満足されているなら、無理にやめていただくことはありません。ただ、かけた金額に見合った効果が本当に得られているのか、ちょっと立ち止まって考えていただいて、もし不安や心配があるようでしたら、主治医や拠点病院のがん相談支援センターにぜひ相談していただけたらと思います。

 〈https://hospdb.ganjoho.jp/kyotendb.nsf/fTopSoudan?OpenForm別ウインドウで開きます

 (がん情報サービス・がん相談支援センターを探す)

 医療者の側には、なぜ患者さんが自由診療の免疫療法を受けようと思うことになったのか、そこに至るまでの患者さんの経緯をふまえ、気持ちを受けとめることが必要だと思います。そのうえで、これからどうしていけばいいのか、一緒に考えていくという姿勢が求められます。(聞き手 編集委員・田村建二)