トイレ・水・食料、普段から備えを 減災のプロに聞く
大規模な土砂崩れや停電が起き、40人超の死者が出た北海道胆振(いぶり)東部地震から6日で1カ月。いつどこで起きてもおかしくない自然災害に、どう備えたらいいのか。横浜市に拠点を置く一般社団法人で、学校や自治体職員、地域住民などを対象に、防災講座や減災マップ作り体験などのプログラムを提供している「減災ラボ」の代表理事、鈴木光(ひかり)さん(43)に聞いた。
土地を知る
北海道の地震で注目したのは札幌市の住宅街で起きた液状化です。都市部ではどこでも起きうる現象だと感じました。
神奈川でも多くの人が造成地に住んでいますが、自分がどんな土地に住んでいるのか知っておくべきです。例えば横浜市は、山を削って盛り土をするなど人工的に造った住宅地に多くの家が立っています。コンクリートで「お化粧」しているため、昔は近くが山、谷、沼だったことが想像しにくいかもしれません。
それでも、地名から推測できます。例えば水に関係した地名、水辺の動物の名前が含まれた地名、崖地を示した地名です。地名にはなくても、バス停の名前から分かる場合もあります。こうして土地の歴史に興味を持つだけでも違います。自治体が公表しているハザードマップを見て、浸水、液状化、崖崩れのリスクを調べてみるのもいいと思います。家の近くに斜面が迫っていれば、そこから離れた場所に寝室を置くこともできます。「土地を知れば選択ができる」のです。
水とトイレが大事
防災用品として必須なのは水とトイレ関係です。
私自身もトイレ用に凝固剤を準備しています。「トイレは避難所で」と言う人もいますが、過去の被災地でのアンケートで、発災から3時間程度で、3割の人がトイレに行きたくなったという結果が出ています。自己完結できるトイレ対策が必要なのです。
備蓄する水の量は「1人当たり最低1日3リットル」という目安がありますが、住んでいる環境や生活によって変わります。また、備蓄した水がなくなれば給水所に取りに行く必要があります。その時、何リットルもの重い水をどう運ぶか。私はスーツケースを使って運ぼうと考えています。カートに積み込むのもいいでしょう。こんなことも日頃から想定しておくと、パニックにならずにすみます。
日常の品で備えを
食料は、普段から食べているものを消費しては買い足すようにして備えておけばいいでしょう。カセットコンロがあれば温かい物も食べられます。食べ慣れたレトルト食品、缶詰や調味料などを切らさないことが大事で、その際、大量に買い込んで備蓄するというより「1個多めに家に置いておく」ぐらいの感覚でいいと思います。
災害時は水が貴重になるので、洗い物を少なくすることが重要です。食器を食べ物で汚さないようにするためのラップ、汚れを拭き取るクッキングシートなども余剰を持つようにしておきましょう。
「防災用」に特化した物ではなく、日常生活で使っている物でいい。家さえ安全なら、家がまるごと備蓄倉庫になります。(熊本地震の被災地の)益城の人たちは、食べ慣れた物、温かい物を食べると活力が違うと話していました。発想の転換をすれば、防災用品の備蓄はそんなに身構える必要はありません。
防災用品のチェックリストが多く出回っています。しかし、災害に対する心構えや意識、イメージを持つことが何より大切です。ちょっとした備えができればパニックにならず、人を思いやる気持ちになり、自分や家族以外の人を助けることにもつながります。(聞き手・大脇真矢)
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<すずき・ひかり> 横浜市生まれ。建設コンサルタントとして9年間、環境と防災分野に従事。自治体の地域防災計画や、災害時における企業の事業継続計画などの策定に携わる。退職後、フリーランスで防災に関するワークショップや講演活動、コンサルティングなどをしている。ワークショップは年間50回を超える。東日本大震災や熊本地震、西日本豪雨の被災地で支援活動もしている。
コップ2杯の水でつくるパスタ
鈴木さんたちは、家庭にある物を使って「ミニ炊き出し」のワークショップを開いている。今回の取材の際、「コップ2杯の水で作るスパゲティ」を教えてもらった。
食品保存用のポリ袋に麺を入れ、全体が浸るぐらいのコップ1杯の水を入れて1時間ほど置いておく。すると麺の色が変わり、軟らかくなる。フライパンにコップ1杯の水を入れて沸騰させ、そこにスパゲティを入れ、2分程度ゆでると出来上がり。今回は、そこにお茶漬けのもとを加えて「和風スープスパゲティ」にした。普段作るスパゲティより、水も熱量も大幅に少なく作ることができた。
鈴木さんがすすめる災害時の食事関係便利グッズ
・カセットコンロ
・クーラーボックスや保冷剤
・キッチンばさみ
・ラップ
・クッキングシート
・ゴムべら(なべをきれいに拭き取るため)
・除菌スプレー
・キッチンペーパー
・ウェットティッシュ
・ポリ袋
・使い捨て手袋
・水運搬用の給水袋(ペットボトルをスーツケースで運ぶ方法もある)
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