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(9日、プロ野球 ヤクルト1―4DeNA)

 プロ野球・ヤクルトの山田哲人がレギュラーシーズン最終戦を終え、トリプルスリー(打率3割、30本塁打、30盗塁)を決めた。2年前にプロ野球史上初となる2度目の達成を果たしたばかり。今度は3度目の偉業だ。34本塁打に33盗塁、打率は3割1分5厘だった。「去年は自分自身がダメで(記録を)続ける難しさを学んだので、今年また達成できてうれしい」

 屈辱を乗り越えての復活だ。

 昨季の最終戦を96敗目で終えた夜。クラブハウスへの帰り際、耳に入ってきたのは3万人を超えるファンからの声援だった。最下位に沈んだのに、その声が温かい。自らは3年連続のトリプルスリーどころか、打率2割5分にも届かないスランプ。ふがいなさで胸が締め付けられ、こらえきれなくなった。「試合に勝てず、打てなくて、悔しいシーズン」。涙を何度もぬぐい、再起を誓った瞬間だ。「モチベーション、気持ちの部分で勉強になった」

 小川監督が再登板した昨秋のキャンプは、143試合にフル出場したシーズン後にもかかわらず、休むことなくバットを振り込んだ。スランプからの脱却へ、体を作り直すためだ。その土台をもとに、冬には体を大きくし、春も乗り切った。「(トリプルスリーは)シーズン前から個人的な目標にしていた数字」。そこに届かなければ、復活ではない――。そんな高いレベルを求めたシーズンだったと言っていい。

 青木が大リーグから古巣に復帰した今季は、昨季とは違い、けが人が減った。バレンティンがどっしりと主軸に座り、坂口と雄平もいる。だから、山田哲だけが孤立して徹底的に攻められることが少なくなった。

 打撃の好不調のバロメーターについて、本人は「良い時はワンスイングでしとめられる。ファウルを打たずに1球でしとめられたら結果が出ている」と語ったことがある。持ち味のスイングスピードを生かし、バレンティンと競い合うように本塁打を重ねた。長打を警戒して外角ぎりぎりを攻められても、確かな選球眼で見極められる。7月20日からは打率3割を切ることがなかった。

 走っても、確かな裏付けがある。「勇気はもちろん、技術も必要。自分は帰塁が得意だから、(牽制(けんせい)で)逆を突かれても戻れる自信がある。だから、思い切っていける」。2年ぶり3度目の盗塁王のタイトルも手中にしている。

 「シーズン後半でも(バットの)ヘッドスピードが落ちていないし、去年とは違うよ。昨秋からバットを振り込んだおかげでしょ」。ティー打撃でトスを上げてきた杉村巡回コーチはそう言って、教え子の活躍に目を細める。「長打力があって、アウトになっちゃいけない場面でも盗塁を決められる選手は過去にいない。あいつは、ナンバーワンだよ」

 あの夜から1年あまり。この日の夜も、復活を喜ぶかのように、スワローズファンから背番号「1」に送られた「ヤマダテツト」コールは温かかった。主役に涙はない。1年間、戦い抜いた、晴れやかな、柔らかい笑みがあった。「1試合1試合、1打席1打席、1球1球に集中してプレーできた」

 13日から神宮で巨人と戦うクライマックスシリーズ第1ステージ。「短期決戦なので結果にこだわって、勝ちにこだわって、何とか(最終ステージが開かれる)広島に行けるよう目の前の試合に集中したい」。もちろん、ファンの思いが力になる。(笠井正基)