【動画】TIG溶接が得意なノースヒルズ溶接工業=井手さゆり撮影
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高精度溶接

 宇宙空間に人工衛星や探査機を運ぶロケットの部品には、軽さと耐久性が求められる。

 2013年初め、大阪府東大阪市の小さな町工場でロケットの内燃機関に使う金属管の開発が始まった。軽量で厚さわずか0・15ミリのアルミ素材を使いながら、高い気密性と、打ち上げの衝撃にも耐え得る頑丈さが必要になる。

 アルミの融点は約660度。だが空気中ではすぐに酸素と反応して、表面が薄い酸化皮膜と呼ばれる膜で覆われる。この膜の融点が約2千度にも上ることが、アルミの溶接を難しくしている。まずは2千度の熱で皮膜を溶かす必要があるが、その熱がアルミ自体に伝わると、あっという間に穴が開いてしまう。

 「うちでは作れない」。困った大手金属管メーカーが頼ってきたのが、ノースヒルズ溶接工業(同市)で製造技術部長兼溶接技術責任者を務める伊達啓志(たかゆき)(43)だった。

 伊達が得意とするのは、「TIG(ティグ)溶接」。「トーチ」と呼ばれる器具の先でアーク(放電)を発生させ、その熱で材料同士をつなぎあわせる高精度な溶接技術だ。トーチとアルミ材の距離を変えたり、トーチを素早く動かして内部に熱が伝わりにくくしたりといった試行錯誤を何十回と繰り返し、1年かけてようやく成功させた。

 金属と金属を、まるでもともと一体だったかのようにつなぎあわせる溶接技術は、あらゆる工業製品の製造に不可欠だ。なかでもTIG溶接は細かな部分の溶接に向き、溶接可能な金属の種類も多い。一方で、設備費用が高額になりがちで、溶接跡の仕上がりも技術者の腕に大きく左右される。

 伊達は宮崎県出身。高校を卒業後、地元の溶接会社に5年間勤務した。まっすぐできれいな溶接ができるよう、毎日フリーハンドで直線を描く練習を繰り返した。

 「自分の力がどれくらい通用するか試したい」と24歳で大阪へ。1年余り鉄工所で勤務した後、TIG溶接を活用する半導体装置メーカーに転職した。「TIG溶接はやる人によってまったく仕上がりが違って奥が深い。どうせやるなら日本一の技術者になりたいと思った」

 伊達が作業台に座る。サングラス式の面をかぶり、トーチの先端を青白く光らせたかと思うと、あっという間に金属同士をつなぎあわせていく。いとも簡単にこなしているようにみえるが、その技術はさながら精密機械だ。トーチの先端と溶接する金属までの距離はわずか0・5ミリほど。その距離を保ったまま、直線や曲線に合わせて先端を動かしていく。1ミリでもぶれが生じれば「不良品」。高い気密性を確保することは当然のこと、溶接跡にも気を配る。機能に問題がなくても、見た目を重視する発注者は多いという。

 自動車、家電、情報機器、医療、原子力、航空宇宙関連など、国内外のあらゆる業界から依頼が届く。開発段階の試作品が持ち込まれることが多く、「実は我々も具体的に何に使うのか知らされていない部品も多い」と伊達は笑う。

 設計変更や製作途中の改良など、発注者の要望にも柔軟に対応する。「あそこなら何とかしてくれる」と頼られる、溶接の駆け込み寺だ。

文系と技術屋、タッグ始動

 ノースヒルズ溶接工業の北坂規朗(のりあき)社長(35)にとって、物心がついた頃から「起業」は当たり前のことだった。手ぬぐい製造業の父、米販売業の母の背中を見て育ち、親族にも自営業が多かった。

 大学の法学部を卒業後、東京の…

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