【動画】時紀行「阿波藍」=松尾俊二撮影
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時紀行

 2020年の東京五輪・パラリンピックの公式エンブレムの組市松紋に採用され、「ジャパンブルー」として注目されるようになった藍。徳島県の特産「阿波藍」や伝統の藍染めへの関心が高まっている。藍を育てて、昔ながらの技法で天然の染料を作り、染める技は職人たちに受け継がれている。

 草むすような発酵臭が鼻をくすぐる工房。藍がめを満たす濃いあめ色の液面に、コバルト色のあぶくが浮かび、日差しに輝いていた。「藍の華(はな)」と呼ばれるこの泡は、染めの準備が整った証しだ。

 徳島市中心部にほど近い「紺屋古庄(ふるしょう)」の6代目、古庄紀治(としはる)さん(71)が、染め液に絹の布を浸す。温度は25度で約10分。引き上げた瞬間、緑色に見えた布は、空気に触れて青く変化していった。

 古庄さんは、江戸中期の伝統技法で絹の藍染めを復活させた「現代の名工」。その仕事を支えるのは、昔ながらの製法でつくられる天然の染料「すくも」だ。「化学染料に押されて厳しい時代もあったが、藍師(あいし)さんたちがすくもを守り、受け継いでくれたおかげで、昔ながらの染めができる」

 すくもづくりは今、100日間に及ぶ「寝せ込み」の最中。春先に種をまき、梅雨明け後に収穫した藍の葉を腐らせて発酵させ、染料にする工程だ。10月中旬、徳島県内に5軒ある製造所の一つ、上板町の佐藤阿波藍製造所では夜明け前から葉藍をかき混ぜる藍師の息づかいが聞こえてきた。

 熱気がこもる作業場。19代目の佐藤昭人さん(79)は全身汗まみれになりながら、葉藍の山を熊手で混ぜ返していた。「藍は生きている。だからこそ発酵する」

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 100日間の「寝せ込み」が続く徳島県上板町の佐藤阿波藍製造所。湯気がこもる室内で、19代目の藍師(あいし)、佐藤昭人さん(79)と20代目の好昭さん(55)が葉藍を熊手などで混ぜていた。発酵を促すために5日おきに繰り返される「切り返し」と呼ばれる作業だ。

 アンモニア臭が目や鼻を突く。葉藍の山に手を入れさせてもらった。軟らかな感触の後、熱に包まれた。「今の時期なら65度。それ以上でも以下でもだめ」と昭人さん。外気温や発酵の進み具合を見極め、時には地下深くからくみ上げた水をかける。

 猛暑や台風に見舞われ葉藍の出来が心配されたが、好昭さんは「いい藍ができそうです」。

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 徳島を東西に流れる吉野川の流域では、古くから藍が栽培されてきた。たびたび氾濫(はんらん)する暴れ川は肥沃(ひよく)な土を運び、台風の季節の前に収穫できる藍が人々を潤した。室町時代の1445年の文書「兵庫北関入船納帳(ひょうごきたせきいりふねのうちょう)」に、兵庫の港への阿波藍の荷揚げの記録が残る。木綿の普及で需要が高まった江戸時代には一大産地として知られた。藍住町文化財保護審議会長で郷土史家の三好昭一郎さん(89)は、阿波藍が全国の市場を席巻した理由を「工夫を凝らして技術改良した成果」と語る。徳島藩による生産の奨励と、流通の後押しも背景にあった。

 だが、明治時代にインド藍やドイツの化学染料に押され、阿波藍は衰退した。「大量の軍服や官服を短時間で均一に染める染料が求められた。手間がかかり、技術的にも難易度の高い阿波藍は敬遠された」と三好さんは指摘する。

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 かつて藍畑が広がっていた吉野川の下流に立つ四国大学(徳島市応神町古川)に「藍の家」と名付けられた工房がある。1979年、キャンパスの一角のプレハブに藍がめが置かれ、その後、2階建ての工房が建てられた。

 10月半ば、工房では染色デザイン研究室の学生が、21日のファッションショー「インディゴコレクション2018」で披露する浴衣やドレスを仕上げていた。真夏に葉藍の収穫を体験し、藍師が作ったすくもを使って染め液の仕込みもした。時間と手間がかかる厳しさを知ったという4年の西岡奈津美さん(23)は「色の濃淡の豊富なバリエーションが魅力。若い人たちに日常の暮らしの中で藍染めを取り入れてもらいたい」。指導する有内則子准教授(44)は「藍の美しさや価値が見直されている今こそ藍の栽培やすくもづくり、藍染めの伝統が時間と労力をかけて受け継がれている実情を知ってほしい」と話す。(文・松尾俊二 写真・内田光)

あの時この時

 藍の栽培が危機を迎えた時代もあった。タデ科の藍は一年草。毎年栽培して次の年の種を確保する必要があるが、戦時中は食糧増産の国策のため栽培が禁じられたという。

 徳島県板野町松谷にある「岩田ツヤ子の碑」には「叔父・佐藤平助の依頼を受け、憲兵・警察の目を逃れ、命がけで松谷の山奥で五、六年間種を採り続けた。この努力が基礎となり、戦後一早(いちはや)く佐藤家で藍作りが復活した」と刻まれている。

 2001年に碑を建てたのは藍師の佐藤昭人さん(79)。祖父の平助さんが藍を守った具体的な方法を、平助さんの死から数十年後に知ったという。「おかげで、今も藍の栽培が続いているんです」

スポット

 ◆古庄染工場 藍染めの見学(無料)や体験(有料)ができる。前日までに要予約。午前9時半~午後3時。日曜・祝日とお盆は休業。徳島市佐古七番町9の12。電話088・622・3028

 ◆藍住町歴史館「藍の館」 藍商の奥村家を資料館として1989年に開館。藍栽培に使った農具や藍商の古文書などを展示。大人300円、中高校生200円、小学生150円。午前9時~午後5時、火曜休館。藍住町徳命前須西172。電話088・692・6317

 ◆藍屋敷おくむら藍住本店 藍染め製品の専門店。作品展も開催している。午前9時半~午後5時。火曜定休。藍住町徳命前須西179。電話088・692・8723

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