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 2017年7月に防衛大学校の学生寮に入っていた10代の男子学生が髄膜炎菌に感染して、亡くなったことが全国ニュースで報じられました。国内ではまれな病気ですので、原因菌もあまり聞き慣れない名前だと思いますが、この髄膜炎菌によって引き起こされる侵襲性髄膜炎菌感染症は、命に関わる非常に危険な感染症です。

 平均的な潜伏期間は4日間で、初期症状は発熱、頭痛、吐き気など通常の風邪と似ています。一方で、症状の進行は非常に速く、発症から半日ほどで、血液の中に菌が増殖する菌血症となり、さらに脳脊髄(せきずい)液の中に菌が侵入して髄膜炎を引き起こすと言われています。

 髄膜炎になると、不機嫌で感情が高ぶった状態から、眠りがちになり、意識障害へと進展します。また、しばしば首の後ろ部分である項部の硬直がみられます。これは、髄膜の炎症によって、後頭部から首の筋肉が反射的に緊張し、首が前に曲がらなくなる症状です。その後、菌血症の進行により、血圧低下、副腎出血、多臓器不全(敗血症)を起こすことが知られています。

 治療は、一刻も早くペニシリン系やセフェム系の抗生物質を静脈注射で開始することです。抗生物質による治療の効果が出れば、2週間前後で髄膜炎症状は軽くなります。

 しかし早期から、高熱、けいれん、意識障害、血圧低下、全身の出血をきたす劇症型で発症し、重篤な経過で、集中治療が必要な状態となることもあります。

 このような経過から、発熱、せき、鼻水などの風邪症状に加えて、急激な頭痛、吐き気、意識障害、項部硬直の症状が現れた場合、髄膜炎菌などによる髄膜炎の可能性がありますので、できる限り早急に医療機関を受診することをお勧めします。

 日本国内での最近の侵襲性髄膜炎菌感染症の患者発生は、13年 23人▽14年 37人▽15年 34人▽16年 43人▽17年 23人です。死亡率は15%と非常に高く、救命されても脳障害や難聴、身体障害などの後遺症が残ることがあります。

 病原体である髄膜炎菌は、患者だけでなく健常者の鼻咽頭(いんとう)からも分離されます。その割合は世界的には5~20%程度で、国内では0・4%です。感染経路は、くしゃみ、せきなどによる飛沫(ひまつ)感染で、鼻やのどの粘膜から感染します。

 体力が低下している場合や、免疫系の病気がある場合は、気道の粘膜から血液、脳脊髄液に菌が侵入して、重篤な症状を引き起こします。

 国立感染症研究所の患者発生動向(13年4月~17年10月)によると、発症のピークは、4歳までの乳幼児と15歳~19歳、40~70代前半にみられました。10代後半での患者発生が多いのは、学生寮やクラブ活動の合宿など、狭い空間での共同生活により感染リスクが高まることが要因と考えられています。

 髄膜炎菌に対してはワクチンが開発されています。欧米では、11歳~14歳前後での予防接種が定期化されている国が多く、最大の流行地域であるアフリカでは、21カ国、2億8千万人を超える人々にワクチンが接種されています。

 日本では15年から、任意で髄膜炎菌に対するワクチンの接種を受けることが可能となりました。費用は、一部の患者さん(発作性夜間ヘモグロビン尿症の治療薬である「エクリズマブ」の投与対象者)を除いて、全額自己負担です。対象は2歳以上で、接種可能な医療機関はインターネットで検索することができます。

 頻度は多くはありませんが、伝播(でんぱ)しやすいうえに、感染すると重篤化する病気なので、海外に渡航する前や、進学に伴って共同生活の機会が多くなる場合は、髄膜炎菌の予防接種をぜひ検討してください。

<アピタル:弘前大学企画・今こそ知りたい! 感染症の予防と治療>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/hirosaki/(弘前大学医学部付属病院周産母子センター助手 山本達也)