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 憲法論議を深めたいと、若い世代の率直な意見や疑問を募りました。ところが、反応はわずか。届いた声を紹介しつつ、考えました。

議論 煙たがられそう

●憲法改正という言葉をよく聞くが、大多数の国民は、与党が改正に賛成していて特に9条を変えたいと思っている、ぐらいしか知らないと思う。このまま国民投票をやっても、投票率は低く、何となくその時の気持ちで賛成か反対かを選ぶと思う。それで国民の意思と言えるのだろうか。(愛知県 山田愛佳 15)

●私の大学の憲法の授業は、焦点になっている「9条改正」「立憲的改憲」を正面から考える内容ではありません。もちろん条文の知識は大切ですが、社会的な問題を真剣に議論することで、若者の憲法に対する意識が変わり、憲法が身近なものとなり、未来を考えられるようになるのではないでしょうか。私は周りの友人にも意見を聞いたりして、深く思考を巡らせたい。ですが今の日本の大学では憲法のような硬い話をする人は煙たがられそうで、勇気がいります。(神奈川県 木下有悠斗 19)

●今まで、憲法についてあまり考えたことがありませんでした。成人年齢が18歳になる、とニュースで聞きました。年齢引き下げは、憲法改正のための国民投票の投票権年齢を18歳からと決めたのがきっかけだそうです。私もあと2年したら投票権が得られます。18歳は、早すぎると思います。(愛知県 眞木祐奈 16)

●日本は私たちが思うほど民主主義が成熟してはいないと思う。首相に忖度(そんたく)して公文書を廃棄した例でわかるように、権力者を監視するシステムが機能していない。だから自民党の9条改憲案には不安がある。自衛隊を明記することで矛盾が生じないよう、むしろ解釈の余地が広がるのではないか。でも自衛隊を否定するつもりはないし、9条に照らせば自衛隊は違憲になってしまうから改憲は必要だとも思う。まだわからない。これが来年選挙権を得る私の正直な思いだ。(東京都 内田汐里 17)

ゲームで学び気づいた

 憲法なんて難しいこと、政治家に任せておけばいいと思っていた。それが間違いだと気づいたのは、「しるしる憲法」というワークショップを体験した時だ。ゲームを通して、旅行に行くのも文章を書くのも憲法があるから自由なのだと気づいた。改憲論争では9条が焦点になるが、憲法はそれだけではない。参加者で憲法前文を音読し、詩のような美しさと温かみに涙があふれてきた。(埼玉県 北野一美 48)

生活守る条文たくさん

 北野さんは、個人の尊重を定めた13条や、11条で規定された基本的人権について「人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果」であり「侵すことのできない永久の権利」と宣言した97条が、自由を守る根幹にあると感じました。この後、別の勉強会でこれらの条文を聞いてストンと分かったそうです。長女は昨年高校3年生で参加し、法律に興味を持ち大学は法学部へ。憲法を心に届ける秘密があるのか、先月のワークショップを訪ねました。

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 「毎日の生活の中で、よくやることを一つ書いて下さい」。各自が記入した紙を回収した司会者が1枚ずつ読み上げ、問いかけます。「これは憲法何条に関係するでしょう?」

 最初のお題は小学1年生の「絵本を読む」。手元に配られた条文集を目で追いながら、13条、19条、21条……と声が上がります。「文化的な生活という意味では25条も」

 参加した12人は若いお母さんが多く、お題も身近な家事が中心です。「片付ける」。思わず腕組みする面々に「何でもいいから想像してみて」と司会者。「引っ越しでゴミが出るから22条の移転の自由」「片付けないとゴミ屋敷ね」「それは迷惑。13条の『公共の福祉』?」

 1時間ほどで20の条文が挙がりました。「コーヒーを飲む」では98条。「豆の輸入の時、国際条約が関係するから」。正解とも間違いとも言いません。実は、憲法を隅々まで読むことがねらいだからです。

 「しるしる憲法」は首都圏の50代の女性6人が主催しています。安保法制が議論になった時、何か変だと感じてつながりができ、始めたそうです。「知らないうちに憲法が変わって不都合が生じていた、では困る。私たちの意思で決めないと」と溝井留美さん(51)と横山雅代さん(51)。

 教えるのではなく「あなたが考えて」という姿勢は、子育てで学んだと言います。「上から目線では引かれちゃいます」。9条ばかりを取り上げることもしません。生活と人権を守るための大切な条文は、他にもたくさんあると思うからです。口コミの出前講座を2年、参加者はのべ500人になるそうです。今後は、明治憲法や自民党改憲草案と比較するような会と、小学生向けのワークショップも構想していると言います。子どもの権利をテーマに「私は私でいい」と実感してもらう体験講座。人権の大切さを身近に感じることが、憲法の理解につながっていくと信じるからです。

 「97条に、基本的人権は将来の国民の権利とあります。その世代を育てる。1人の100歩より100人の1歩、と思っています」(吉田晋)

若者とつながれぬもどかしさ

 「先生がいきなり怒って一方的にまくしたて、最後は涙ぐんで。一体何?と思いました」。千葉県鎌ケ谷市の公民館で6月にあった憲法の勉強会。米国の大学3年生今井光奈さん(21)は、渡米前の2015年に安全保障関連法が成立した時の県立高校の授業を振り返りました。「先生が『大事な憲法9条を変えてしまったら、戦争が起きればみんなが行かなきゃならないんだよ!』と。大事なことだというのはわかるんです。でも『大変、一大事だ』と言うばかり。『反対』以外許されない雰囲気には反発を感じました。ディスカッションにしてほしかった」

 今井さんは父親が米国人。高校まで日本で過ごし、国籍選択の必要性から政治や人権問題に関心を持つようになりました。夏休みに一時帰国し、国会議員事務所でインターンをしていた時、同市の塾講師、村松真理子さん(60)が開く勉強会を知り参加しました。

 村松さんの活動は、07年の国民投票法成立がきっかけでした。改憲を議論する前にまず憲法を知ろうと、自民党の改憲草案と現憲法の条文を読み比べるリーフレットを作り、市内の全公民館などに配っています。

 この日は、20代から80代まで14人が参加。村松さんは「憲法は権力から国民を守るもの」ということを、特に若い世代に伝えたいと思っていますが、集まるのは年配の人が多く、なかなか若者とつながれないもどかしさも感じています。

 勉強会に参加していた翻訳家の佐藤剛さん(44)は、2カ月前まで約12年間、早稲田大学で非常勤講師をしていました。学生と公文書の改ざんや森友・加計問題について話したこともあります。「彼らは『おかしいですよね、でも世の中ってそういうもんですよね』と。今の生活で特に困ることもなく、守りに入っている印象」と佐藤さん。「人権も『国家から与えられるもの』と誤解しているのでは」と危惧しています。

 根本から発想を変えるためには若者との対話の場が必要との思いから、最近、地元の鎌ケ谷で映画サークルを作りました。色々な映画を見て感想を語り合う中で、自然に人権や政治、憲法を考えるきっかけになればと思っているそうです。(国沢利栄)

他者への関心=憲法への関心 江藤祥平・上智大准教授(37)=憲法

 私たちの憲法への関心が低いのは憲法は、基本的に国家のルールを定めたものだからです。公務員でもない限り、無関心は当然とも言えます。でも、最低限度の生活が皆に保障されなかったり、公文書が改ざんされたりと、私たちの国のかたちが崩れ始めたとき、本当は無関心ではいられなくなるはずです。

 それでもなお憲法に関心を持てないとすれば、他人に無関心だからです。SNSで互いの承認欲求を満たし合うことは、流行に同調しているだけ。周りの人と自発的な関わり合いを持たないと、「個人の尊重」を実現するのは不可能です。

 無関心から関心へ。実はこれは映画「君の名は。」のテーマでもありました。東日本大震災を想起させる被災地と都会の高校生が入れ替わり、他者の痛みを経験する物語。日常でも、この入れ替わりの想像力を働かせれば、きっと身近な他者の姿が見えてくるはずです。憲法への関心とはこういうことだと私は考えています。(聞き手・木村司)

現実との間 補助線引く教育を 西田亮介・東京工業大准教授(35)=社会学

 戦争はおろか安保闘争や学生運動、東西冷戦さえ直接知らない世代にとって、戦後民主主義を支えてきた共通感覚は、もはや自明ではありません。メディア環境もインターネットが登場し、新聞や論壇誌など「皆が見通せる言論」を基軸にした「まともな言論」や、議論の相場観もなくなった、と思います。

 共通の地平が失われ、「平和憲法の大切さ」といった年長世代が常識と思うメッセージが、若者に届きにくくなっています。憲法の知識を学ぶだけでは、現代社会との結びつきに関する想像力は養えません。

 求められるのは、憲法と現実の間に補助線を引き距離を埋めるような政治教育。例えば現代の公権力増大基調といった主題は有効ではないでしょうか。公文書の改ざんや自衛隊日報の隠蔽(いんぺい)など具体例を示しながら、憲法を通じた政府統制や権力監視を議論してはどうか。政治的選択の材料を提供するメディアにも、同様の工夫が求められると思います。(聞き手・吉田晋)

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