[PR]

 車って興味ない。走ってくれてパンクしなきゃそれでいい。

 往診で乗り回していたぼくの新車、あちこちぶつけて2年でボロボロになった。走行距離だけはどんどん延びた。3万キロ、5万キロ、8万キロ。10万キロ突破した。車屋の兄さん、「まだまだ走れますよ」とエール。ガソリンスタンドのお兄さんたちも「日本車はエンジンがいい」と続投を支持。

 おんぼろ車はマツダのデミオで4輪駆動。冬、雪の山道、ボロ車は威力発揮。至難の道を何度も突破。もう一つ。このデミオには優れたところがあった。座席を倒すとフルフラットになる。そこにお棺がピタッと納まった。お金のない人、家族のない人の時、デミオは遺体の入った柩(ひつぎ)を乗せ活躍した。霊場で「どちらの葬儀社?」と尋ねられ、「野の花です」と言うと、通してくれた。

 「ガタンゴトン」。最近デミオが走行中に変な音を立てた。車体が崩壊するような音だ。走行距離15万9670キロ。車屋の兄さん、「限界です。もう車検が通りません」。ガソリンスタンドのお兄さん、ちょっと運転してみて、「音が変、谷底に落ちたらきっと患者さん泣きますよ」と究極のイエローカード。

 はて、と困った。車検は残り3カ月。16年も走ってくれた。走れる限り走らせてやりたい、と馬主の気持ち。限界に挑戦だあ、と決めた途端、ブレーキが甘くなった。ガソリンスタンドに持ち込むと、ありんこのおならのような空気がタイヤから漏れていた。とどめのパンク! くじけてならじ、修理を依頼!

 デミオはゴール目指してガタンゴトン、町や谷を走った。往診中「先生!メーター」と同乗のナース。廃車寸前に16万キロの記録達成。おめでとうデミオ!

<アピタル:野の花あったか話>

http://www.asahi.com/apital/column/nonohana/(アピタル・徳永進)

アピタル・徳永進

アピタル・徳永進(とくなが・すすむ) 野の花診療所医師

1948年鳥取市生まれ。京都大学医学部卒業。京都、大阪の病院・診療所を経て、鳥取赤十字病院の内科医に。2001年12月、鳥取市内にてホスピスケアのある有床診療所「野の花診療所」を始め、さまざまな死の形を臨床から報告。鳥取市にセミナーハウス「こぶし館」を建築し26年になる。